新王

@kesukesosuke

エピローグ

特集8の時間です。今日の特集は三年前の事件で首謀者となった小森洋介容疑者についてです。

 まだ、皆さんの記憶にも新しいあの事件の真相とは。

 あの事件を生んでしまったのはなんなのか。取材班による独自取材、視聴者様からの情報を組み合わせてお送りします。

 こちらのVTRをご覧ください。

 殺人、殺人教唆、強盗、窃盗、不正アクセス禁止法違反その他多くの罪で起訴された洋介容疑者。彼はよくテレビ出演時やインターネット上ではよく、科学の発展は人類の発展であるという言葉を残していました。この言葉の意味とは。

 彼の一審は一年半ほど前に行われ、その時には死刑判決が出ていました。今回の裁判では判決が覆る焦点として彼のブレーンがいたのかどうか、彼は脅されていたのかということが焦点になります。

 起こったことが複雑な今回の事件。その全てを読み取っていきます。

 

 ニュース番組は淡々と色なく読み上げていた。八時の時間帯なのだがみたいものがなく、スマホをさわりながらゲームをしながらテレビのチャンネルをいじっていた。

 少し気になる内容だった上に、特集8では面白い内容があるときもあるので少し気になってみてみたのだ。

 

 私は嘘が嫌い。

 しかし、こんな特集はどうせこのキャスターもアナウンサーも1会社員であることを思うと、上の人間に従う駒下であるに違いない。

 そう思うと昔は好きだったテレビも事実だけではないとわかり、嫌いになってしまったのかもしれない。

 チャンネルを変えようとしたとき、父が隣で濁り酒を飲みながら、少し酔っているようで笑いながら

「こんな子供おるんか?」と言っていた。確かに彼はまだ、21歳なのだ。

 微醺とした父は少し興味があったようでチャンネルを動かすには至らなかった。


 2007年に岐阜県大垣市に生まれた彼は、幼少期から多方面で才気煥発で周囲を驚かせていたという。小学校に入学したとき親の金に手をつけたのだという。その時、若干七歳だったという。

 少年の将来を案じた両親は彼の脳に異常がないのかテストを受けさせたという。これがその時の調査結果の紙だ。

 IQの欄には112の数字、その横には上位25%と書かれている。つまり異常はないという結果だったのである。

 そこからその才能はよくない方向へと向かっていく。

 少年は小学校六年生の時、再び両親の金に手をつけた。この時はもちろん、直接盗んだわけではない。

 ハッキングによりパスワードを解読し、解読したパスワードでネット口座に侵入しそして自分の口座に送金したのである。

 同じようにIQテストをを受けさせるとIQの欄には143上位0.5%と書いてあった。急激な変化の背後にはある重要な事実が隠されていることが当番組の取材で明らかになりました。


 ここまで言い終わったとき、CMに入った。


 男の子がサッカーをしているところが写る。とても楽しそうだ。

 男の子がお母さんと推察される人物に、あなたのためを思っているといわれ、サッカーをやめさせられる姿が写る。

 そこで、男の子の悲しそうな姿と共に日本の子供の幸福度についての資料が提示される。

 先進国なのに幸福度が高くないことに驚きを隠れなかったが、やめさせられることがそんなに幸福度に関係しているのだろうかと思った。

 次のCMは子役が出ている企業の広告CMだった。この子役、そんなにかわいくないのに。私と同じ中学生くらいに見える。

 子役の多くは大人になったとき女優を続けていないという。その理由は容姿の変化にともない印象が変わってしまうことがあるとされている。

 CMをみるのをやめてパズルゲームをしていたとき元彼の林太からLINEが入ってきた。

 なぜか、おはようと変なスタンプが入ってきたので

「うん」

『うんってなに?笑笑』

「なにこのスタンプ?笑笑」

「間違えた」

『俺もこのスタンプ間違えた』 

『このシリーズの電話できる?ってやつ送ろうとした笑笑』

「なんで電話しようとしたの?」

『電話したかったで?』

「そんなこと聞いてないった」

『誤字りすぎ』

「アイデアスケッチやった?」

『してない、電話してやる?』

「やる」

といってきたので電話を繋ぎ始めた。彼に対する感情については沈黙のヴェールで包んでおこう。

 電話をし始めたとき、まだあの特集が終わっていないことに気がついた。

 特集をもう一度つけたときにはもう話は進んでいたが、はじめを知ってしまったので最後まで知りたくなってしまったのだ。

 電話とどちらかにしなければいけないのは分かっているのだが。

 電話をしながら彼から送られてきた写真には珍しくあまり興味がなかった。

 特集8を少し見逃してしまったのは残念だったのだが、続きをみることにした。

 テレビに写っている磨き上げられた顔をしている女性は淀みなく流れる美しい水のように言葉を流していたがその言葉は定まることなく宙に浮いており、なにかを溶かしているようだった。

 

 この技術などを含めた不正の金の動きが明らかになっています。この図をご覧ください。真ん中の容疑者を中心としての金の動きです。IT企業ガリメゾンと脳科学の企業四社が共同で開発した機械に対して出資している銀行四社。

 これらは容疑者に弱みを握られていたと証言しています。また、各社の関係者からは、容疑者に握られていた弱みは公表されないはずの社外秘の内容だったそうで流出することでの損害は数百億を下らないという話がありました。

 この技術についてがこれからについてとても重要になってくるのです。中学生になった頃には、戸籍の偽造があったために、戸籍の年齢よりも四歳上になっていたことから、十三歳のはずが、十七歳だったことになる。

 この難しさのなかで生きていた彼の中学生についてのVTRをご覧ください。

 

 一瞬テレビから目を離したとき林太の絵に目が行った。そのアイデアスケッチは空間表現のお題に基づいて書かれているのだがその絵が放つものは、まるで沈黙の嘆きが染み込んだ空気のよう。鉛筆の跡ひとつひとつに宿る憂愁が、見る者の心をそっと掴んで離さない。色彩は沈んだ夢の残響のように広がり、静けさの中に言葉にならない哀しみが囁かれている。その深みはただの影ではなく、過去の記憶や失われた時間が滲み出るようなもの。まるで遠い波の音が、心の奥底に優しく押し寄せてくるような感覚だ。

 こんな風に思ったのはなぜだろうか。テレビの特集はこの後も続いていた。

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