第41話 沈黙の帝国

 王都。

 報告を受けたコンスタンティン国王は即座に指令を飛ばした。


「全方面に連絡を。帝国国境沿いの哨戒を倍増させよ。

 交易都市の検問も強化し、帝国との連絡を遮断しろ。

 ……オクタヴィアを必ず取り戻せ」


 王国の伝令は次々と馬を飛ばし、近衛騎士団も国境警備に向かう。

 だが、帝国はまるで嵐の前の静けさのように動きを見せない。


◇◇◇


 竜騎兵団のジークリート団長は地図の上に手を置き、エミールに指示を飛ばす。


「全隊、包囲をさらに広げろ。街道沿いの村も、一軒残らず洗え」


 エミールは扇を閉じて冷ややかに頷いた。


「任せてくださる? 殿下を必ず見つけ出しますわ」


 だが侯国全域で行われた徹底的な捜索も、空を切るばかりだった。

 目撃証言はなく、街道沿いの馬車もすべて確認されたが、殿下を乗せた馬車はどこにもない。


◇◇◇


 バルタザール事務次官は侯国中の役所・港・交易路にまで連絡網を広げ、マティアスは息を切らしながら次々と届く報告書を仕分けた。


「東港、異常なし。

 西街道、異常なし。

 北方関所、異常なし……。」


 報告書の山が積み重なっていくが、どれも空振り。

 焦りを隠せない役人たちの中で、バルタザールは骸骨のような顔でただ一言。


「……まだだ。全てを疑え。影に潜んでいる。」


◇◇◇


 ジークリートは夜の作戦会議で短く言った。


「制圧した帝国兵どもも、何も知らんようだ。」


 エミールが扇を頬に当て、低く呟いた。


「わたくしたちが取り戻したと思ったら、もう一枚上手がいたというわけね。」


 竜騎兵団の兵士たちは悔しさに歯を食いしばった。


◇◇◇


 一方の帝国は、まるで何も知らないかのように沈黙を保っていた。

 交易都市に潜ませていた密偵たちでさえ、オクタヴィアの行方を掴めていない。


 エドワードは報告書を握りしめ、静かに言った。


「……見えない。敵の狙いが、まるで見えない。」


 アウレリウスは無言で拳を握り、フランツでさえ険しい顔をしていた。

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