鷹山莉子の場合(3)


「ごめんね、急に電話しちゃって」

「ううん、大丈夫。店の話?」


 珍しい。

 同じキャバクラで働いている子から直電があった。


「お店の話じゃなくて、莉子ちゃんの動画が流れてるの見ちゃって……」


 嘘でしょ。

 LIMEで送ってもらったリンク先は海外のアダルトサイト。


 そこにモザイク無しで、映っていたのは……。


 後背位で、容赦なく腰を打ち付けられて息も絶え絶えに喘いでいる見覚えのある女性。


 お尻を容赦なく叩かれ、真っ赤になって痛がっているのに叩くのをやめるどころか途中で首を絞めて、気をると同時に気絶した自分が映っていた。


「これ、リベンジポルノってヤツじゃない?」


 ちなみに再生数がかなりの数字になっているので相当収益が出てるだろうと教えてくれた。


 目の前が真っ暗になった。

 これからお店に立つたびに動画に気づいたお客さんからそういう目で見られると思うと気が遠くなりそうになる。


 警察にマークされているので、莉子の実家に戻れない旦那が、ギャンブルするための資金欲しさにやったのは、言うまでもない。


「莉子!」

「お母さんゴメン、今、お店の子と電話中で……何かあった?」


 母親が莉子の部屋のドアを開けた。

 最初、電話中だから、後で話を聞こうと思った。

 だが、母親の様子が明らかにおかしいので、電話を保留にして話を聞くことにした。  


「父さんが……」


 













 ──3時間後。


 家から遠く離れた総合病院の霊安室で、検死とエンゼルケアの終わった父親が棺の中に横たわっていた。


 死亡診断書を作成してもらっている間に昔から鷹山家がお世話になっている葬儀社に連絡を入れ、遺体搬送車が到着するのを待っていた。


 隣では母は父の兄弟など親族に葬儀社の安置所の住所を伝えようとあちこちに電話を入れている。


 検死を行った医師からは、過労と睡眠不足による居眠り運転が原因との話だった。


 一緒に立ち会った警察の方からは、高速道路で走らせている間に居眠りして、橋の上から落ちたと聞かされた。シートベルトはちゃんとしていたそうだが、落下による衝撃がすごくて、頭を打ってしまったらしい。その割には遺体は大きな損傷はなかった。


 警察が父の契約していた物流運送の会社に連絡したそうだ。

 生鮮食品の納期の関係で、急がせていたことがわかったが、トラックは父の自前で、あくまで個人事業主が会社から委託を受けた形なので、会社側に非は無いとの回答だったという。


 父の死から2週間が過ぎた頃。


 母親の高齢者用スマホに父が亡くなる前にメールを送っていたことに母が気づいた。母になぜ気づかなかったのか尋ねると普段、家族内の連絡はLIMEを使っていて、メールなんて迷惑メールしか来ないので全然見ていなかったという。


【あの男と●●SAで会った。めずらしく機嫌がよくて、食事をおごってもらったが、今すごく眠い】


 どういうこと?

 旦那がなぜ●●SAにいたの。

 父と会ったのは偶然?


 ──ううん、絶対違う▪▪▪▪


 「アイツ」が父を殺したんだ……。


 でもなぜ?


 その疑問は、その日の午後に届いた封筒で解決した。


 保険会社から届いた保険金の支払明細書。

 受取人は旦那の名義になっていた。


 でもどうやって?

 

 保険会社に電話したところ、半年前くらいに父親と旦那が一緒に窓口にやってきて、母から旦那に受取人を変更したとのことだった。保険金受取人の変更理由として、母親が認知症でボケており、娘である莉子が他の男と浮気を繰り返すどうしようもない女なので、義理の息子である旦那に変更の手続きを行ったという。


 多分、脅されたに違いない。

 母や莉子にも伝えず、そんなことをしていたとは……。


「お母さん、死亡診断書は?」

「そういえば……」


 父親の友人と名乗る知らない男が、初七日の時にやってきたそうだ。

 莉子はもうお店に向かっていて、他に弔問客がいなかったため、母一人で対応したそうだが、死亡診断書を見せてくれと変なことを言われたので素直に見せたそうだ。


 






 

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