鷹山莉子の場合(4)


 死亡証明書がコピーされた?

 男は長い時間、居座ったらしく母は何度も席を外したそうだが……。

 母に確認したところ、実印も消えていた。


 急いで銀行に連絡を入れたが手後れ。

 旦那の口座から父の死亡保険金が全額引き落とされていた。


 母と二人呆然とするばかり。


 父の保険金は1,000万以上はあった。

 だがあの男なら数ヶ月で散財してしまうだろう。


 もう許せない。

 私達親子を死んでも金の道具にするなんて。

 父親の死亡事故について、旦那が関与している疑いであるメールを警察に提出したが、対応した警察官の態度が冷ややかだった。警察による事件解決の望みは薄い。


 そこで莉子は自分で解決できないかとネットを渡り歩いた。

 

 そして辿り着いた【夫を☆にしませんか?】という名のサイト。

 他の二人のように莉子にはいっさいの躊躇いもなくそのサイトの質問に答えていった。


 ──数日後。


 例のように謎の女性、御子が【調査報告書と今後の方針についての最終確認書】を持って莉子の前に現れた。


 現在、旦那はここから遠く離れた街で昼はギャンブル、夜は飲み屋に通って豪遊しているそうだ。


 父が母のために遺すはずだった保険金。

 それを享楽のために使うなんて、信じられないし、断じて許せない。

 旦那に対して、もう殺意しか沸かなくなっており、会った瞬間、刃物で凶行に及んでしまいそう。


 だけど、それでも旦那は殺せない。

 昔から喧嘩坊主で負けたという話を聞いたことがない。

 中学校の頃に高校生8人をひとりでやっつけたという噂は、いろんな人からこれまで聞いてきた。


 女の細腕に刃物一つ持ったところであの厳つい男に勝てる気がしない。

 なにより、あの男を前にするとこれまで恐怖体験から体がすくんでしまいそう。


 そのため、この御子という女性が提案した最終確認書に書いている通りに実行すれば、本当に旦那を亡き者にできる気がした。


 








「こんなところに呼びつけて何のつもりだ。おー?」


 今すぐ殺してしまいたいほど憎んでいる旦那。


 だが、悟られてはいけない。

 冷たく光る心のナイフを研ぎ澄まして、獲物……旦那の喉元をかっさばくためには、冷静さが肝心だ。


 場所はファミレス。時間は深夜2時。


 店員も少なく客の姿もちらほら。


 ここなら旦那が暴れ出してもすぐに警察に通報されるだろうから、下手なことはしないはず。


「お父さんの保険金を返して!」

「は? お前、馬鹿か。なんで俺がお前の親父から受け取った金をあげなきゃならん」

「どうせ、お父さんを脅したんでしょ?」

「あー、言いたいことはそれだけか? おら、行くぞ?」

「ちょっと放して、すみません誰か助けてください!」


 当たり前のように莉子の脇に手を伸ばし、軽々とソファから引き上げた。

 痛いほど腕を掴まれ、レストランの出入り口まで引っ張られる。


 このまま連れて行かれたら、どこか人気ひとけのないところで乱暴される。大きな声を出して助けを求めた。


「おい、その手を放しなさい!」

「俺はこの女の旦那だ。外野は引っ込んでろ⁉」


 警察官が2名。

 これもあの御子の描いた筋書き通り。


 こういう展開になるだろうと、「ファミレスで暴れている男がいる」と計画の協力者によって、旦那がファミレスに姿を現したと同時に通報してくれていた。


「嘘です。こんな男知りません!」

「莉子ぉぉ~~っ? お前、自分が何言ってるのか分かってんだろうな?」


 怖い……。

 膝が言うことを聞かず、震えっぱなし。

 

 だが、ここで折れて認めたら、計画がすべて無に帰してしまう。


「誰ですか、莉子って? 痛いっ、おまわりさん助けてください!」

「てんめぇぇぇ!」

「やめなさいっ⁉」


 殴られるかと思ったが、間一髪、警察官が旦那を止めに入った。


「莉子、覚えておけよ──絶対ぶち殺す⁉」

「待て、こらぁ!」


 警察官二人がかりでも止められない。


 無理やり二人を殴って引き剥がして捨て台詞を吐いてファミレスから走り去った。


 でも、これも計画に入っている。警察官に暴行を働いた旦那に警察当局も重い腰を上げるだろう。


 だけど、警察に捕まえてもらうために一芝居打ったわけではない。


 本当の計画はこれから……。






 


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