鑑 日葵の場合(3)
「すみません。鑑ですが、娘の美耶は?」
「美耶ちゃんのお母さんですか? こちらへ」
「でも、美耶が」
「落ち着いてください。娘さんは今、病室で点滴を打っていて意識もあります」
美耶が救急車で搬送されたという病院へ直行した。
「こういうものです。病院から連絡を受けてきました」
警察。
私服なので刑事なのだろうか?
「それでお母さん、なんでショッピングモールの屋外駐車場で娘の美耶ちゃんを車に残して買い物に出たんですか?」
「それは……」
──30分前。
夫の一輝から連絡があり、ショッピングモールで美耶を車に寝かせて義母と買い物に行ったら、鑑家の車が救急車やパトカーに囲まれていたそうだ。
そのまま戻ると職務質問に会うため、一度ショッピングモールの中に戻り、日葵に連絡してきた。
「
これが間違っているのはわかっている。だが5年間、ずっと夫に脅され続けたため、どうしても逆らえなかった。
「申し訳ありませんでした。すべて私の不注意です」
「不注意とかそういう問題じゃないでしょう?」
「はい、すみません」
「……ところで、何時にショッピングモールに来て、どれくらい店内にいましたか?」
「はい、11時頃に車から降りて、店内で買い物をして、映画を観てました。それでつい娘のことを車に残していたのを忘れてしまって……」
このセリフはすべて夫、一輝が用意したもの。誰かに質問されたらこう答えるようにと言われていた。
「そうですか。じゃあ、今日は屋上駐車場のどこに車を停めてましたか?」
「車、ですか。はっきり覚えてませんが、エレベーター側の近くだったと思います」
「……わかりました。後日児相がお宅を訪ねると思いますが、同じようにお答えください」
「はい、この度は大変申しわけありませんでした」
私服警官は、軽く会釈して、すぐに立ち去った。
一輝から駐車場所までは指示されてなかったが、鑑家は買ったものを車までカートで運ぶためにエスカレーター側を使わずエレベーター側を使うのでうまくごまかせたみたいでほっとした。
──うっ。
受付で病室は5階だと聞いて、エレベーターの前で立っていたら、遠くであの私服警官が無言で、無表情のままでこちらを見ていた。
疑われているかも。
だけど明確な証拠がない状態。なのであくまで警察の勘、といったところだと思う。
ナースステーションで美耶の病室を確認して、急いで向かうとぐったりとした美耶がベッドに寝かされていた。細い腕にある点滴が痛々しくて、見るに堪えない。
胸のあたりが静かに上下している。
日葵は美耶を起こさないようにそっと近づき、椅子に腰かけ小さな女の子を見守った。
数時間が経過して、ウトウトとし始めた頃、「ヴヴッ」とスマホが震えた。
夫からのLIME。
内容は、早く帰ってきて夕食の準備をしろ、とのことだった。
「もうイヤ……」
自分でもびっくりするくらいかすれた声が出た。
どんなことをしてでも別れたい。
そうしないと今回みたいに美耶の命にまでかかわってしまいそう。
夫からのLINEに返事をせず、一心不乱にスマホで検索を始める。
離婚、モラハラ、シェルター、セーフハウス……。
もうこのままあの家に戻りたくない。
そう思って、調べているうちにあるサイトが目に止まった。
【夫を☆にしませんか?】
星にする?
できるものなら今すぐやりたい。
変なサイトだったらどうしようかと思いもしたが、それ以上に夫、一輝と義母への怒りが上回った。日頃、鬱憤が溜まっている女性たちの気を晴らすためのサイトかもしれないが、とりあえず変な質問に答えていった。
「あとは沙織さんと一緒でした」
日葵は、ここまで立て続けに話し続けたせいか、大きく息を吐き、この話の結末を語るために逸る気持ちを落ち着けた。
謎の女性、御子がセーフハウスに滞在していた日葵のところに現れ、夫の「処分方法」の書かれた最終確認書にサインをした。
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