第5話「交換する意味」

愛は不滅だ

二千年経った世界が

それを証明している。

 憂塚先生 著 AnyWay.より引用


「白瀬よ」

「なんでしょう、恋無き先生」

「相変わらず無遠慮だな」

「それが乙女の一線を越えた証拠です」

「なんだ、未だに拗ねているのか、あのことを」

「ええ、努力だけは買って見せますから、ぜひ今日もつつがない一日をお贈りください」

「そうか、やぶさかにも君は、私を打診しているな」

「でも幸せを目指そうと、すぐ気づかなかった先生に、恋心が揺れたんです」

「そうか、すまないとは思っている、その折と言ってなんだが、デザートをくれ」

「相変わらず、給仕はできない先生ですよね」

「人には得手不得手がある、それを知ってくれ」

「存じていますよ、やらない事を無理だと悟って任せる人だと」

「まったく、常人ならない起点のよさだ」

「これでも先生の助手、皮肉も一流ですよ」

「そうだな、ならデザートの供給速度も一流なんだろうな」

「そんな贅沢はできません」

「なんだホールケーキをこしらえたていたろ、財源はあると見れる」

「それがほとんどそのケーキに費やして、現状、資金源はゼロにも等しいです」

「なんだと、まさかそれでは、デザートもなしにこれから生きて行けと、そんな困窮を生きろと言うのか」

「付け加えれば、お米も高騰が続き、ありません」

「なんだと、では、今日のご飯はこの塩と卵だけなのか」

「はいスクランブルエッグです、これが今日から毎食続くと思ってください」

「栄養が偏るだろ、それになんだその毎食というのは、耐えられん、甚だ絶望の句だろそれは」

「ええ、つまり、アルバイトしないといけませんね」

「待て待て、私は作家、それで給金の前払いはどうだ」

「それが先生、働けと管轄が言ってまして・・・」

「まったく鬼だろその管轄!!」

「ひとまず、アルバイトでしょうかね、先生」

「待て待て、きみはまさか、本当にこの私が働けると思っているのか」

「わかっています、先生は、人とを会うは愚か、目を合わすこともままならない、陰キャですからね」

「さらっとディスってるだろ」

「ええ、こんな主人だったら、悩みは尽きないですよ」

「そうか、だからまたディスってるだろ」

「ともかく先生、アルバイトしますか」

「すまない、私は外に出たら最後、熱に溶かされて蒸発する自信がある」

「そうですね、言い回しだけは達者ですが、引くに引けません、でますよ先生」

「まて、どこへ連れていくつもりだー」

「ここです」

「ここは・・・」

「北海道です」

「なぜこんなところへ連れてきた」

「料理本の依頼でして、食べて記事をかけばいいそうです」

「なんだ、夢のような仕事だな」

「ええ、蒸発しない仕事です」

「なんだ、その言い回し、ちょっと面白かった」

「ええ、では食べましょう、この特大ラーメンを」

「おいおい待て、これってまさか」

「はい大食い物の記事ネタです」

「待て待て、この量、あきらかに常人では食えない、規格外サイズだぞ」

「ええ、でも仕事なので先生、食べますよ」

「おいおいこれって時間制限とかもあるんだよな?」

「いえ、それが、それはないんです、」

「どういうことだ」

「これは大食い系と言いました、食べきれなかったら罰金という形式なんです」

「つまりは、初めから、食いきれない事を狙ってるってことだろ」

「はいそうです」

「なんつーネタつかんで来たんだよ白瀬、」

「実は記事って言うのは嘘です、」

「ではまさか、」

「はいお察しの通り、大食いで賞金狙いです」

「おいおい、じゃあ、食えなかったら最後、卵すらお目にかかれなくなるんでは」

「はい、よって、食べましょう、この3キロのラーメンを」

「ウオオオオ、行くぞーー白瀬ーーー」

「はい、」


ガツガツ

ガツガツ


「どうだ白瀬そっちは」

「問題ありませんまだ行けます」

「おっしゃあああ、行くぞ食切るぞー」

「はい、先生」

「ぐぷ、けぷ。」

「大丈夫ですか、先生」

「もう一生分のカロリーを摂取した気分だ」

「私も、数日間は夢にもラーメンがでてきそうです」

「トラウマすぎる」

「ええ、先生」

「しかしやりきった、食ったな白瀬」

「ええ、賞金は、これです」

「なんだこれ、次回餃子無料?」

「まさか、賞金って、」

「おい白瀬よ、お金がもらえるわけではなかったのか」

「いや、そんな、」

「待てここに注意書きがある」

「なんです」

「ラーメンのスープを飲みきったら、餃子券2枚って書いてる」

「そして私たちは、一枚ですから、スープを飲み切れていなかったということ」

「いやどちらにせよ餃子、かよ!!!」

「ちゃんと調べるべきでしたね」

「まぁいい、腹も膨れた、明日は餃子を食って、家に帰ろう」

「はい、せんせ、」

「ありがとな白瀬」

「なんですか急に、」

「生活をとりもつために、こんな場所まで連れてきたんだろ」

「ええ、先生に無理をさせようとは思っていません、ただそれでも掴みたいものがあるんです」

「そうだな、お金持ちになって、日々が満たされたら、きっとこんなことも笑える思い出になるな、」

「そうですね先生」

「よし餃子券は白瀬にやる」

「え?どうして」

「ほら、俺の為にここまでしてくれたんだ、だから二人前、食べていいぞ」

「大丈夫ですよ、そんな気遣い、ただ先生と大食いに挑戦できて、これだけでほんとは満たされていたんです、だから私があげますよ、餃子券」

「じゃ、こうなったら、二人の餃子券交換して、互いにたべよう」

「なんです、まったく同じことじゃないですか、」

「いいや、交換することによってな、何か一つ、つかめる気がする」

「まったく詩人ですね」

「それをわかる白瀬も、一人前だよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「よし帰ろうか」

「はい先生」


二人はそうして

次の日には餃子を食べた

人生の中で

同じものを手にしているのは

みんな同じだ

でもそれを分け合うこと

それを見せあえること

それはきっと

親しくなれた証だ

だからまたありがとうと何度もいい

言葉すら交換する


これが世界

世界の秘密なんだ

それではまた、

表情が見えてまた

とりもっていく

これが人生

人生だ。

ありがとう。ありがとう。


交換していこう。

掴んでいこう。

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