二十六
隠しごとをしていないか、って言われても言えない。
「していません」
「本当に?」
「はい。心旗殿下には、なるべく隠しごとはしないようにしていますが…」
さすがに、心旗殿下を守るために陛下とつながっているなんて言えない。
「そうか?心旗がお前に何か、隠しごとをしていると言っていた。心旗に言えないことなら、私に話してくれ」
「いえ、俺がしたいことなんです。だから心旗には大丈夫だと、話してください。お願いいたします」
「わかった。もし気が向いたら、お前から心旗に話してやってくれ。その方が絶対に嬉しいと思う」
「本当に皇族の皆さんには、お気遣いいただいて…」
「とんでもない。人として、当然の行為をしているまで。礼には及ばない」
なかなか言えないことを、当たり前のように言う。
自分も何か、王妃としてできることをしなくては。
「それでは今日はこれで失礼する」
「いいのか?もう少しゆっくりしても大丈夫だぞ?」
「ありがとう。暇な、ところだったんだ」
「よかった!領翠が買ってきてくれた、茶菓子と書物がある。それでもよかったら遺書に楽しもう」
「ああ。書物は、どんな書物だ?」
「なんだっけ。確か、歴史ものだって言っていた。好きか?」
「好きだね。自分の屋敷にも、よくあるよ」
陣蘭の書物の好みを初めて知った。
「俺の書斎を心旗に作っていただいた。よかったら、好きなのを借りて?」
「いいのか?!」
「もちろん!なんでも、あるからさ」
「書物好きの友は初めてだ。やっぱり、順英とは趣味が合う」
「俺も。陣蘭とは、趣味が合う。…友ではなくて、家族でいたい。駄目か?」
「…駄目ではない。家族でいよう。友ではなく」
「遅くまで、すまなかったね」
「いいや。楽しかった。よかったらまた来てくれ」
「そうさせていただくよ」
陣蘭が帰ったあとは楽器の稽古だ。
「ではまた」
「またな」
屋敷の門を閉めたあと、急いで自分の部屋に戻る。
(練習曲すら、まともに弾けないのに…!)
急いで、楽器の練習をしなければ。
陣蘭が来てくれて、本当によかった。
演奏があまりにも下手すぎて沈んでいたので、嬉しかった。
元気をもらえた気がする。
もっと、練習に励みたいと思った。
「順英様。陛下がお越しです」
「へ、陛下?!」
今から楽器の練習をしようと思ったのだが、今日はやけに客が多い。
「それは本当か?!領翠」
「本当です。少し、お急ぎください」
「わかった…!」」
陛下を待たせてはいけない。
侍女に怒られないように、見つからない程度の小走りで陛下のところに急ぐ。
「こちらでございます」
陛下がいらしたのは、自分の部屋の近くの客間。
茶を飲みながら、自分の侍従たちと幸せそうに話している。
「そうなのか?!」
「そうでございます」
「その話し、興味が…順英ではないか!!」
仲はいいが、
「お久しゅうございます、陛下」
心旗の父がいきなり、自分を訪ねてきた。
「いきなり、押しかけてすまない」
「いいえ。大変光栄です」
「表を上げて、気軽に話してくれ。そなたみたいに友のように接することができる官吏がいなくなり、
あまりの忙しさに、
陛下に会いたかったので、会いに来てくれて本当に嬉しい。
「それは誠に申し訳ございません。わたくしの管理不足でございました。次は、きちんと文を書かせていただきます」
「順英、気軽に」
「あ、ああ…」
まるで祖父と話しているみたいで、いけないが親近感が湧いてしまう。
この人は皇帝より、官吏の方が似合っている。
「陛下」
「なんだ?」
「新しい書物、完成いたいました」
「部下たちは下がれ」
陛下の命令で、侍女と侍従、護衛たちは皆下がった。
「新作のものを見せてくれ」
「こちらでございます」
「そうか!」
新しい思想書を見せると、陛下は大喜び。
「すごいぞ!腕を上げたな!」
「嬉しいです、陛下にそう言っていただけて」
「ここの
「そうですね。俺も思います。それを、お手伝いするのが俺たち官吏の約目です。陛下がお望みならば、どんなことでもいたしますので仰ってください」
「感謝する、順英」
「感謝するのはこちらの方です。俺を見つけてくださって、本当にありがとう存じます」
それからも最後までじっくりと、見てくれた。
「皇族の全員に、この書物を見せておく。皇族が手本になれば、民も少しは見習うはずだ」
「是非そうなさいませ」
「それより順英」
「なんでございます?」
「今年の宴で、演奏してくれるそうだな。とても楽しみにしているぞ」
楽器が苦手だということを、陛下にも知られている。
趣味でしかも独学でしかやっていないし、壮大な音程音痴だということも知っている。
「全力で頑張ります。それに!陛下!!」
「ん?どうした?」
おねだり、してみよう。
「俺の部下二人を、今回の朝廷の宴で演奏させていただけませんか?個人で…」
「別に、構わない。好きにしろ」
「ありがとうございます!」
「ちなみに誰だ?」
「
二人の才能が枯れてほしくない。
二人の演奏はとても好きだから、この機会に才能を皆に見せつけてほしい。
(自分ができるのは、これくらいだからせめて…!)
「わかった。二人が個人で演奏できる時間を、たっぷり与えてやろう。何分がいい?」
「できる限り、長くお願いしたいです」
「わかった。その準備に向かう」
「輿の準備をいたします!」
「結構だ。そこまで迷惑かけるわけにはいかない。自分で、用意させる。見送りもここまででいい。今日は客がいっぱい来て疲れていると、そなたの世話係が騒いでいたのを見てな」
「また…来ていただけますか?」
「当たり前だ!また来るぞ?」
「ありがとうございます!」
「それでは、失礼する」
「来てくださり、ありがとうございました」
「また新作ができたら、見せてくれ」
「もちろんでございます!!」
部屋の中から、陛下を見送った。
◆◆◆
(順英が皇后になれば、国は必ず安定する)
「お前はどう思う?」
「何を、でございますか?」
輿の近くにいた
「李正妃が皇后になった、この国はどうなると思う?」
「大変、素晴らしいものになるかと思います」
よく透き通る声で、宦官が答えた。
「まったく、同意見だ」
「李正妃様でお決まりに?」
「当たり前だろう。李正妃以外に、皇后に相応しい正妃などおらぬよ」
「絶賛なさるのですね、李正妃様のことを」
「そうだな。我が国を、必ずや…」
この代の皇帝の判断が正しかったのか、道龍国は今では信じられないくらいの大国となっていくー
◆◆◆
また聞こえる。
(無理はしていないといいが)
念のため、様子を見に行こう。
「
「かしこまりました」
「今日は何をすべきか?」
「お夜伽…、の内容にございますか…?」
「ああ。お前は、何がいいと思う?」
「わたくしめは…」
戸惑う、残月を見るのはなんだか楽しい。
「今日は順英様に、三人もお客様がお越しでした。だいぶお疲れのようですし、添い寝…だけになさったら…?」
顔を真っ赤にして言う残月が、とてつもなく面白い。
「そうだな…!」
「何を笑っておられるのです!王子殿下!」
「私の質問に真面目に答える、そなたが面白くてつい…。すまない」
「まったく!!殿下はまだ子どもでいらっしゃいますね!!」
「そうか?」
「そうですよっ!!」
残月の顔は綺麗だ。
朝廷でも一目置かれているその姿は、心旗の部下に相応しい。
残月は心旗が一番気に入っている、信頼できる部下だ。
「それでは、李正妃様に伝えて参りますゆえ」
「ああ。私も、湯浴みを済ましておく」
「わかりました!」
心旗は風呂の扉を開けた。
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