2。~氷のぬくもり(1)
数週間前……。
雪が降っていた……。
つん、と冷えきっている空気を感じる中……近くの視界は、さえぎられる程ではないけれど、遠目には見えづらく…次から次に、冷たい風にのって、無数の雪が……そこに降っていた……。
さっき、小高い丘で…昼食をすませてから、ここに来るまでの間に、天候がわるくなり…お昼はとっくに過ぎていたけれど……空は白く、辺りは薄暗くなっていた……。
ここの村の、いくつもの同じような形の民家の屋根などや、村の中の木々にも、ここの土地全体に降った雪が降り…地面には降った雪が、高く降り積もっていく……。
この村の、周りにある、それぞれの雪山の山脈も白く…今は、降ってくる雪で、遠目には見えづらくなっているだけではなく……山頂を隠している雲でも見えなくなっている近くの雪山も含めて、ここの世界は…白かった……。
そこには、白い世界が、ひろがっていた……。
そんな中で……一人の青年が、ゆるい、雪の降り積もった坂道を、歩いていた……。
(ここは…そういうイメージの土地かな……)
そして……その青年は…目的の村まで辿り着いた……。
「ここか……」
青年は、村の出入り口にある、「カカン」…と言う村の名前を見て確認した……。
「…ここが、アミベルト山脈の麓にある村……雪山シャンへと行く為の村、カカンだな……」
青年は言った。
「だけど…ここの付近に来てから…それまでは天気だった空模様が…ここに近づくにつれて、雪が降りだしたりして……。ここの土地が、雪山に囲まれているからかな……進めなくはないけど…目的地のここまでは、進みにくい……。まるで、拒まれているみたいにだ……。でも…この雪……何故だろう……魔力を感じる……。誰かが魔法でか…意図的に……この雪を、降らせているのか……?」
この辺りの地形は、山に囲まれているためなのだろう……村の中でも山の岩肌が、ごつごつと、していて、石が多く、坂が多いい。
多分…山に囲まれているオレの地元と同じような感じで…ここの山に斜面に沿って行って村を開拓していって…人の生活圏をつくっていった所なのだろうな……。
青年は、そう思いながらも…ゆるい、雪の降り積もり…だけど、他のひと達が通ったりしたあとの、足跡のついた坂道を、歩いていく。
「あ、肉球のあともある……。誰かがワンちゃんと、さんぽでも、したのかな……(笑)」
青年は、そう言ってほほえみながら…ひとの靴の足跡に混じって…どうぶつの足跡もある坂道を、歩いていく……。
歩いているとは言っても…積もった雪で、すべって転ばないようにと…ゆっくりと歩いていった……。
辺りには、ほかに音はなく…青年が、ザク…ザク…と、雪の上をゆっくりと歩いていく音に、ジャケットなどの服が、こすれる音と、青年が息をする音、そして…冷たい風にのって、青年の体にあたってくる雪の音だけが……雪の降る静けさの中で…静かに聞こえていた……。
「お、雪だるま。かわいいな……」
誰かがつくって置いたのだろうか……民家の家の前に、ちいさな雪だるまがいた……。
「とりあえず…今回ここに来た目的の、召喚獣についての情報を手に入れる為に……世界中の各地にある情報屋、リウォードに行くか……」
それから……。
青年は、古びた、こじんまりとした平屋の情報屋、リウォードの扉を開けて…建物の中に入った……。
その奥に、おばあさんがいた……。
「いらっしゃい。この雪の中、この村まで…よく来たものだ……」
部屋の奥のカウンター席に、普通のサイズのマッサージチェアに腰かけて、葉巻を吸っているおばあさんが、声を掛けてくれた。
「こんにちは」
青年は、建物の中の、いろいろな書物の並んだ、所狭しとたてられた本棚の間や…床の上に点々と積み上げられた本の塔の間を…おばあさんが座っている部屋の奥へとまっすぐに進んで行った……。
そして…
「こんにちは、情報屋さん。オレは、コルク。召喚士だ……まだ召喚獣とは、一体とも契約は、できてはいないけどな……」
青年ーーコルクは言った。
「私は、この村の情報屋、アマン。ボスと言ってもいいんだよ」
カカン村の情報屋ーーアマンが、まるで怒っているかのような感じの、少し低い声で言った。
ポクポクとマッサージチェアの肩たたき機の二個の丸い物体が…アマンの肩…ではなく、小さな体のアマンの、頭を、たたいていた……。
小さな体のアマンは…背が低いことから…座高が低く、マッサージチェアの肩たたき機の二個の丸い物体までは…アマンの肩が、とどいていなかった……。
だから…アマンがマッサージチェアに座っていても…アマンは肩ではなくて…頭をポクポクと、たたかれていた……。
「ぷくく……」
その光景を見たコルクは……必死に笑いをこらえるのが、大変だった……。
「コルクさん…召喚士は何も…召喚獣だけを召喚するわけではないから、召喚士と言っているんだろ?」
「ああ……一応は、召喚魔法も使えるからな…それで召喚士とも……」
「ふむふむ……。それで…ここへの要件は……?」
二人しかいない部屋の中で…アマンがコルクに訊いた。
「ああ…オレは世界中を…召喚獣をさがして旅をしていて……。ここの近くを通ったときに、ここにいる召喚獣の噂を聴いて、ここまで来たんだけど……。あの雪山シャンには、召喚獣がいる…と……。だから、あの雪山に入るには…この村を介してではないと入れないからな……。丁度よかったよ……情報屋リウォードさんで、その召喚獣の具体的な情報も、買う事ができるから…と……」
「なるほど……召喚獣シヴァについての情報かい……」
「! …と言う事は……あの雪山シャンには…いるのか? 召喚獣が……」
これで、召喚獣についての明確な情報が手に入る…と、コルクは言った……。
「この村、カカンから、さらに北に行った、あのアミベルト山脈にある、一つの雪山シャン…。その裏手にある、古代遺跡キーンには……確かに、召喚獣がいたよ……その、召喚獣の名はシヴァ。この土地柄にふさわしく、氷の属性の召喚獣だよ……」
アマンは、少し声を重くして言った……。
そんなアマンに、コルクは言った…。
「氷の属性の召喚獣、シヴァ……。ここにきて遂に、召喚獣についての明確な情報が…と…思ったけど……いたって…どういう事だ……?」
「ああ……。召喚獣シヴァは、キーンから、いなくなったよ……。今から、さかのぼる事…5~6年前の事だよ……」
アマンは少し…さみしそうに言った……。
「…それって……。召喚獣は基本、召喚士に召喚されていないときには、魔穴にいるだろ? 5~6年もの間…魔穴に戻ってないなんて…それって…シヴァが誰かに倒された…って事なのか……?」
「それはないから、安心していいよ、コルクさん……。ここから、いなくなったあとのシヴァらしき存在の目撃情報が、世界中で点々と、少なからずあるから……」
「そうか……」
「今から、さかのぼる事…5~6年前の事よ……。その時から召喚獣シヴァは…放浪召喚獣になったんだよ……」
「……放浪…召喚獣……?」
コルクは言った…。
「ああ……」
部屋の壁に掛けられている、大きな古時計の振り子が、コチ、コチ、と時を刻んでいた……。
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