2-6
サイレンが鳴る。
前回の襲撃から五日後というのだからデペスは畑から取れるのかと言いたくなる。
もっとも、その生産施設が何処にあるのか?
どのような形をしているのかすら不明というのだから、デペス殲滅の道は遠い。
しかしやるべきことはわかっている。
ただ敵を倒す。
誰もいない廊下を走る俺は不敵な笑みを浮かべる。
さあ、出撃の時間だ。
「さあ、見学の時間だ」
第八期が作戦室に集まったところでジェスタが大きなモニターを前で白い歯を見せている。
話を聞いたところ、今回は敵の数が少ないので第七期のみで戦うことになったようだ。
なので、今回は第八期以外がどのように戦っているかと見てもらう、とのことである。
それはそれで興味のあることだ。
新武器を実戦で試すことができないのは残念だが、近接武器を貸し出している最中なので今回はお休みでもよい。
一部から不満の声が上がっているが、ジェスタがそれを「八期だけで出撃したこともあっただろ」とポイント稼ぎは順番であると言われて大人しくなった。
それでも不満そうにしている者がいる。
デイデアラとエルメシアだ。
この二人の意見が揃うというのは何だか奇妙に見える。
恐らくエルメシアは娯楽のため。
デイデアラも酒のために前借していたので、ポイントを稼いでおきたいのだと思われる。
諦めの悪いデイデアラはしつこく食い下がるが、これは恒例となっているものらしく、拒否はできないとのことである。
なお、後で調べたらミリダから本当に訴えられているらしく、その対抗措置としてポイントを必要としていた模様。
罪状はセクハラ。
量刑は禁酒。
その禁酒期間を短くするためにもポイントが欲しかったようだ。
渋るデイデアラを他所にモニターに敵の情報を映すジェスタ。
「今回出てきたのはこいつ――獣型タイプB。小型に分類される中ではスピードに優れる近接攻撃型。攻撃手段は見ての通り、牙と爪」
表示されるデータに頷く者と予習済みで無反応に分かれる英霊。
俺は事前に調べているので後者だ。
第一印象がシマシマのトラのこいつは正に見たまんまの性能である。
「見ての通りサイズが他に比べて小ささめだ。素早い分耐久面では昆虫型に劣る。その代わり、昆虫型と違って獣らしい動きもする」
例えば回避。
真っすぐにただ突進してくるような昆虫型と違い、獣型は避けたり他の個体とタイミングを合わせて攻撃するなど知性があるような動きをする。
その点がかなり厄介なので、戦う際には注意が必要だとジェスタは語る。
「数は昆虫型ほど多くはなく、周期が他と合わないのか滅多に大群にならないのが有難いところだな」
とは言え、全くないわけではなく、前回の虫と獣の同時襲撃では負傷者の数が普段の三倍にも膨れ上がった、とその厄介さを数字で教えてくれる。
そうこう説明している内にモニターの方ではそろそろ第七期が戦闘に移ろうとしていた。
それに気づいたジェスタが戦況の説明に戻る。
「陣形は見ての通り、敵の規模が大きくないので包囲殲滅。最初の衝突で勢い殺した後、横に広がりゆっくりと包囲していく気だろう」
ジェスタの言葉通り、真っすぐにエデンを目指す塊を第七期は正面から受け止めた。
そこで既にごっそりと削れているのは、敵との衝突に合わせて何かしたからだろう。
次に第七期は左右へと広がりながら、敵の群れを包囲するように動いている。
敵の動きにも合わせて全体がよく動いており、気づけばものの十数分で包囲しているのだから大したものである。
当然数に違いがあり過ぎるので、抜け出るデペスが結構いる。
だがそんなことはお構いなしに綺麗な円を描いた第七期。
次の瞬間――円の中にいた敵の反応が綺麗に消えた。
「おお」と思わず誰かが声を漏らす。
もしかしたら俺も声が出ていたかもしれない。
実に見事なものである。
そこからは最早消化試合。
最後に散り散りになったデペスを散開して潰して回る。
出撃から僅か一時間足らずで戦闘は終了していたのだ。
正に「手際よく処理した」とでも言うような戦闘に誰も何も言えないでいる。
「これが、君らの先輩の実力だ」
「君たちも早くこうなってね」と言わんばかりの物言いだが、これに文句を言える者はいない。
(いやはや、見せつけてくれるなぁ)
英霊とは生前は英雄とまで言われるほどの功績を持つ者である。
そんな英雄たちが自らの実力に自信を持っていないはずもなく、それを砕かんばかりの差をしっかりと見せつけてきたのだ。
彼らは英雄――そのプライドを傷つけられれば、見返すために取る行動は何か?
「もうじき彼らとの交流も開放される。先輩方に舐められないといいな」
笑顔で挑発するジェスタに一部が「は? これくらいできますが?」と言わんばかりに頬を引きつらせている。
多分この辺りもマニュアル化されているのだろうな、と周囲に気づかれないように息を吐く。
とは言え、ここは俺も少しはエデン側に立ってやることにする。
そうすることで、俺が規定外領域に到達した者の立場を受け入れたことをそれとなく伝えるのだ。
「……確認するが、我々が出撃になった時、同じように見られていたのか?」
俺の質問に「その通り」とばかりに満面の笑みで頷くジェスタ。
第八期のみ出撃時の相手はトンボ型。
そちらはまだよいかもしれないが、明らかに第八期の汚点とも言うべき戦いがある。
そう、頭部型タイプBというゲロの波である。
あの戦いを他の英霊たちはどう見るか?
気づいていた者もいたはずだ。
だが、俺の発言で気づかなかった者たちが理解したことで、作戦室の空気が変わる。
「あの戦いを自分たちの実力と認識される」
それを受け入れられない者は結構な数いるのではないか?
舐められたら終わり、という価値観が共通認識であるかのように、恐らく第八期は次の戦いでまとまるだろう。
これを見越してあの頭部型をぶつけたのではないか?
そんな疑問が俺の頭に浮かんだ。
(いやー、よくできたマニュアルだことで)
多分そうなんだろうな、と確証はないが、エデンについて少々知る機会があった俺は同じ立場のリオレスを見る。
腕を組んで瞑想するように目を瞑って座っており、こちらの視線に気づいたのか薄っすら開けた目がこちらと合った。
軽く頷くリオレスに同じような仕草で返す。
多分だけど意味はあってる。
頑張って周りに合わせるとしよう。
そう思っていたのだが……立ち上がって退出しようとする俺の肩ががっちりと掴まれた。
「そう言えばあんた……武器を貸すことができるんだったね」
振り返ると顔だけ笑み浮かべるレダがいた。
「そんなこともできたよね」と続く女性陣の目が笑っていない。
「貸出先は決まった後だ。諦めろ」
それだけ言って終わらせようとしたのだが、立ち上がった瞬間に腕を左右から同時に掴まれる。
「まーまーまー、ちょっとお話しましょうや」と見たこともない連携を見せ、作戦室の隅へと連れ去られた。
そこからは脅し半分色仕掛け半分で強引に協力を迫られ、仕方なしに一度だけという条件で引き受けることとなる。
説得されている最中に「確かに俺が弾薬を回す側になって武器スロットを全部使ってフル回転させれば強いのではないか?」と興味を持ってしまったことが最終的に協力要請を引き受けてしまった要因である。
火力が出せないタイプの後衛陣と一緒になって弾幕を張ってみよう、という試みがどのような結果になるか?
敵を多く倒せなければ解放される武器が少ない可能性が高いので、俺にとってこれのメリットはかなり薄い。
戦果ポイントも稼げないためこちらはアリスに要相談だが、そもそも次の戦果ポイントも情報料で持っていかれる予定なので、稼いだところで仕方がない。
前回十分稼いだにもかかわらず「二回分は二回分」と言って交渉に応じてくれなかったので、他を稼がせる側に回っても文句は言われないはずだ。
それと、俺が連れ去れているのに気配を消すようにスッと作戦室から立ち去ったリオレス君。
俺からブレード借りてるのに薄情過ぎやしませんかね?
あとこんな時こそ役に立てよ、と勝手に何か一人で燃えてるマリケスに言いたい。
最後に「ハーレムじゃねぇか、羨ましいな」とか指差して笑ってデイデアラ。
よく見ろ、男も一人いる。
「すまねぇ、スコール1」と謝るジョニー君が女性ばかりの職場に放り込まれ、立場も発言権もなくなった男性職員のようでむしろ同情してしまう。
一応最後の抵抗とばかりに「敵の規模次第ではこの話はなしにする」と言っておいたが、どうなることやら。
取り敢えず訓練場に行く前に自己紹介を頼みたい。
そう言ったところ「そう言えばこういう奴だった」と白い目で見られた。
協力してほしいのかそうでないのか、どっちなんだい君たちは?
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