第三話
……突然立ち上がった、
放送部、いやいまはバレー部に移籍した『不思議ちゃん』は。
相変わらず『不思議ちゃん』のままだと……まずは思った。
「
フルネームで、もう一度僕が大声で呼ばれて。
「あの……だから……緊急動議」
今度はいきなり声が小さくなって、それから。
……講堂が、静まり返った。
「か、か、かい……」
顔を真っ赤にした鶴岡さんが。また粘り出したから。
ふと思いついた僕は。
「かい……。あ! 『解任』ですね!」
そう助け舟を出したのだけれど。
「なんでなのっ!」
鶴岡さんに、そうじゃないと怒られた。
……あまりのことに、また講堂が静かになる。
「……いったい……どういうことかしら?」
えっ、いまのは……?
舞台袖から、
基本的に『人前ではしゃべらない』はずなのに。
お怒りの雰囲気で、ステージ中央に立つ僕に近づいてくる。
続いて
「ちょっと、夏緑さぁ……」
低い声でそういって、立ち上がったところで。
「ストップ、ストップ! もう夏緑、セリフ忘れないでよ!」
女子バレー部の
「き、緊張しちゃいました……みなさん、ウナ君。ごめんなさい!」
鶴岡さんが、ペコペコ謝りはじめたけれど。
……な、なんなんですかこれ?
「みなさん、大変失礼しました」
「女子バレー部長の、
先輩が……なぜか『自己紹介』をしている。
「副部長の、
続いてふたり目の『自己紹介』が続いて。
一瞬の沈黙……ということは。
……僕も、名乗ったほうがいいのだろうか?
「あの……」
「海原くん、それだけはやめて」
三藤先輩が、サッと腕を伸ばして僕を遮ると。
「昴君は、黙って聞こうか」
玲香ちゃんが反対側から、口を開くなと告げてくる。
春香先輩は、そんな僕たちを見て。
一瞬放送部にいた頃のように、苦笑いみたいな表情を見せたあとで。
「運動部部長会有志から緊急動議を提案します」
やや漢字が多めのセリフを、一息でいうと。
「つきましては、先生がたの許可をお願いします」
そういって、頭を下げた。
「……とりあえず、どうぞ」
神出鬼没の
インカムのマイクで返事をする。
「『生徒会の設立』を、提案します」
……え?
春香先輩、いまなんていいました?
「そのまま、生徒たちのご意見どうぞ」
今度は、
自らマイクで返事をする。
いや、いまって。『送る会』の説明会ですよ?
そんなときに僕たちはいったい。
……なにを、しているのですか?
「よし、俺は賛成だ!」
「俺も!」
野球部のキャプテンと、剣道部長が同時に大声で賛同すると。
「わたしたちも賛成です!」
女子バレー部員全員がそろって立ち上がって。
隣の男子バレー部員が慌ててバラバラだが続いていく。
「カイバラっ! 俺は心の底から賛成だ〜ぁ!」
うげっ、
わざわざ叫ぶな。
それに、なぜに僕の苗字を……こんなときまで間違えるんだ……。
「
「
三藤先輩と玲香ちゃん、それはワザとですよね?
「賛成のみんなは、立ち上がろう!」
吹奏楽部の副部長がいうと。
「嫌なら、立たないで!」
あの、栗木先輩。
ちょっと強引すぎませんか……?
「そっか、部活ごとに並んでだんだね」
玲香ちゃんが、いうとおり。
いつもなら、クラス単位で座るところなのに。
「学年とクラスをまたいだのね……それも『全部』」
三藤先輩の指摘そのままに。
バラバラと立ち上がりつつある『帰宅部』まで。
ある意味みんなが、ひとつの部活みたいにまとまっている。
「成立要件が明らかではないけれど……」
「どう見ても賛成多数だね」
三藤先輩と玲香ちゃんの、言葉のとおり。
起立する生徒が続く中で、僕は……。
「……快く賛同してくれるものばかり集めるのは、偽善だ」
昨年の秋、生徒会の立ち上げに向けて。
卒業生たちと僕たち放送部が、共同で頑張っていた頃に。
まだ理事長だと知らずに出会った。
「声なき声を、集める覚悟を見せろ」
……
あのときは、成立は確実視されていたものの。
まったく『別の事件』が理由で断念した。
ところが今回は、アッサリと決まりそうな上。
このことを明日の卒業式で知ったら、大喜びするであろう先輩たちの顔が。
一瞬にして僕の頭に……これでもかというくらい浮かんでくる。
ただ、それでも僕は。
……『なにかが違う』と、感じていた。
「……若葉すごい! もう確実じゃん!」
「先輩! やりましたね!」
そういって、部員たちみんなが喜んでいる。
どうしよう……わたしもめちゃくちゃうれしい。
ねぇ、わたしたち!
頑張ったよね、陽子!
「……なぁ栗木、俺たち思ったんだけどさぁ〜」
運動部の部長たちを中心に。
放送部のみんなに、やっぱり生徒会をやってもらおうと。
『送る会』説明会での海原君たちを見て。
そんな話しが、あちこちからあがってきた。
部長会の仕事を減らしたいというのも、本音の一部だ。
ただそれ以上に、実質的に生徒会みたいな存在なのに。
「アイツらをただの手伝いみたいにさせてるのって、よくないよな」
そんな声がたくさん出た。
「せっかくやるなら、三年生の卒業までにまに合わせようぜ!」
誰かの掛け声が合図となって、それぞれの顧問からはじまって。
三年生の先生たちにも話しをした。
先生たちは、年末の『花道の件』で。
たったひとりで謝罪した海原君を見ていたから。
大きな反対に合うことのないまま、ことは割と順調に進んでいた。
ところが、実は……。
「放送部には、絶対にいわないで!」
陽子に話したときが……一番の難所だった。
「若葉、どうして最初に話してくれなかったの!」
珍しく声を荒げた彼女に、ほかの部長たちも驚いた。
たまたまとおりがかった寺上校長が。
「しばらく、話しをさせてもらえるかしら?」
そういって陽子を連れていって。
「絶対に事前に『放送部には話さない』」
その条件でないと許さないと、陽子がわたしたちに告げたのは。
それから、三日もたったあとだった。
きょうは放送部が、機器室で打ち合わせをしているのを確認してから。
在校生たちには部活単位で座るように、お願いした。
「幹部は意見を押し付けない」
陽子との約束を、どの部活もしっかり守った。
それは帰宅部も同じで。
「賛成も反対も、ひとりひとりの判断で」
そういって、念を押してきた。
採決のタイミングは、あの『彼』が。
ステージで説明を終えたあと。
ちょっと失敗したけれど、夏緑がなぜか。
「第一声だけはわたしがやります! やらせてください! 譲りません!」
しつこいくらい、自分にやらせろといってきた。
……そんな努力が、まもなく実る。
「もう少し、あと少し」
「悩んでないで、どんどん立って!」
うちの部員たちが、祈るように。
「どうか、『全員』で……」
「『みんな』、お願い……!」
いや。もっと多くの人たちが、祈っていた。
だが、そのとき……。
「ありがとうございます、一旦全員着席してください」
マイクを持った陽子が、わたしの隣で。
とても落ち着いた、でも逆らえないような声で。
……みんなに座れと、うながした。
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