第31話:『王都(メジャー)』の空と『再会(ライバル)』

王都『キングス・ランディング』。

空を覆うように行き交う飛空艇。雲を突くような白亜の塔。そして、街の中心に鎮座する、数万人を収容可能という巨大ドーム。

「す、すごいです……! お城が空に浮いてますぅ!」

リゼッタが口をあんぐりと開けて空を見上げている。完全なお上りさん状態だ。

俺たち『ピジョンズ』は、軍公認の『通行手形(バックアップ)』のおかげで、王都の検問をフリーパスで通過し、決戦の地へと足を踏み入れていた。

「おいおい……こんなデケェ場所で暴れるのかよ……」

いつもは不敵なガルムですら、その威容に気圧(けお)されたように呟(つぶや)く。

『王立闘技場(キングス・コロシアム)』。

俺たちのホームタウンの闘技場が、まるで子供の砂場に見えるほどのスケールだ。

「ビビるなよ、田舎モン」

ミーナがガルムの背中を叩くが、その視線も少し泳いでいる。

「ここが、『中央(メジャー)』か……」


選手控え室に入ると、そこはすでに異様な熱気に包まれていた。

煌(きら)びやかな魔法装備を纏(まと)った『海竜団』。

極寒の地で鍛え上げられた『氷狼隊』。

全国各地の予選を勝ち抜いてきた、Sランク、Aランクの猛者たちが、所狭しとひしめき合っている。

俺たちが入室した瞬間、室内の空気が少し変わった。

「見ろよ、あれが例の……」

「Sランクをフッたっていう、田舎の『ピジョンズ』か?」

「装備はいいが、顔がビビってるぜ」

突き刺さるのは、好奇と、そして明らかな侮蔑(ぶべつ)。

彼らにとって俺たちは、実力で勝ち上がった英雄ではなく、話題性だけで特別枠(ワイルドカード)を勝ち取った『生意気なヒール(悪役)』なのだ。

完全な『アウェイ』の空気。

「……フン。相変わらず、いいツラ構えをしてやがる」

その刺々しい視線を遮るように、一人の大男が俺たちの前に立ちはだかった。

「……バルガス」

ガルムが目を見開く。

そこにいたのは、かつて俺たちがコボルド戦の前に衝突し、そして煮え湯を飲ませた『アイアン・ブルズ』のリーダー、バルガスだった。

だが、以前の粗暴な雰囲気は消え失せている。

装備も、ただの重厚な鎧ではない。関節部分を軽量化し、機動性を高めた実戦的なものに洗練されていた。

「生きてたか、バルガス」

俺が声をかけると、バルガスはニヤリと笑った。

「フン。地獄の底から這い上がってきたぜ。……お前らに負けて、目が覚めたんでな」

彼は、後ろに控えるメンバーたちを示した。彼らもまた、以前のような『取り巻き』ではなく、規律ある『戦士』の顔をしている。

「お前らの『戦術(スモールベースボール)』、俺たちも研究させてもらった。『パワー』だけじゃ勝てねえってな」

「……へぇ」

「勘違いするなよ。お前らを倒すのは、進化したこの俺たちだ。……決勝で会おうぜ、慎吾」

バルガスが拳を突き出す。

ガルムが、嬉しそうにその拳に自分の拳を合わせた。

「おうよ。返り討ちにしてやるぜ」

かつての敵が、同じ地方(リーグ)から這い上がった『同志』として、今は頼もしく感じる。

緊張が少し解け、俺たちの間に「戦える」という空気が戻ってきた。


その時だった。

ザッ、ザッ、ザッ……。

控え室の扉が開き、黄金の絨毯が敷かれたかのような、圧倒的な『覇気』が流れ込んできた。

騒がしかった室内が、水を打ったように静まり返る。

「ようこそ、王都へ」

現れたのは、黄金の獅子の紋章を刻んだ、Sランクギルド『金獅子の騎士団(ロイヤル・レオンズ)』。

その先頭で、スカウトマンのレイモンドが、皮肉な笑みを浮かべて俺たちを見た。

「……おや、負け犬(バルガス)同士、傷の舐め合いですか? 泥舟の乗り心地はいかがです?」

「てめえ……」

バルガスが唸るが、レイモンドはすぐに道を開けた。

「団長、彼らです」

現れた男を見た瞬間、俺の『監督の視点(アイ)』が、警告音(アラート)で視界を埋め尽くした。

黄金の全身鎧。彫刻のように整った顔立ち。

そして、表示されるステータスは、全てが『S』。

何より異常なのは、その『特殊能力』欄だ。

【エラー率:0.00%】

団長、ライオネル。

王国最強の男。

彼は、俺たちとバルガスをまとめて見下ろした。

そこに侮蔑の感情すらない。ただ、道端の石を見るような、無機質な瞳。

「『エラー(不完全)』を愛する者たちか。……理解に苦しむな」

美しい、だが凍えるような声が響く。

「戦いとは、完璧(パーフェクト)であるべきだ。不確定要素など、弱者の言い訳に過ぎない」

「なんだと……!」

バルガスが激昂して一歩踏み出そうとする。

だが、ライオネルがわずかに視線を向けた瞬間、とてつもない『重圧(プレッシャー)』がバルガスを縫い留めた。

「ぐ、う……!?」

バルガスですら、冷や汗を流して動けない。

これが、Sランク(メジャーリーガー)の『格』か。

「決勝(センターコート)で待っているぞ。……ここまで上がって来れればの話だがな」

ライオネルは、黄金のマントを翻(ひるがえ)し、俺たちの横を通り過ぎていった。

残されたのは、圧倒的な絶望感と、静寂。


『王立闘技場』、中央フィールド。

開会式のために入場した俺たちを待っていたのは、残酷なまでの『格差』だった。

「ライオネル様ー!!」

「最強! 最強! 金獅子!」

『金獅子』が入場すると、ドームが揺れるほどの大歓声が上がる。

対して、俺たち『ピジョンズ』が入場した時。

「…………」

「……引っ込め田舎者!」

「Sランク気取りが!」

まばらな拍手と、冷ややかなブーイング。

「こ、怖いです……」

リゼッタの足が震えている。ルナリアも顔面蒼白だ。

数万人の敵意。完全なる『アウェイ』。

俺は、震えるリゼッタの背中を、パンッ! と強く叩いた。

「ひゃっ!?」

「周りを見るな」

俺は、空中に浮かぶ巨大な魔法映像板(バックスクリーン)を見上げて言った。

「『ダイヤモンド(戦場)』の広さは、田舎も王都も変わらない。ベース間の距離も、マウンドの高さも同じだ」

俺は、不安げなメンバー全員の顔を見渡した。

「相手がSランクだろうが、観客が全員敵だろうが、やることは一つだ」

「……俺たちの、『野球』ですね」

ルナリアが、杖を強く握りしめる。

「おうよ。暴れてやるぜ」

ガルムがニヤリと笑う。


上空のスクリーンに、トーナメント表が表示された。

俺たち『ピジョンズ』の初戦の相手。

【VS 西の強豪 『海竜団(シー・ドラゴンズ)』】

魔法障壁のエキスパートとされる、優勝候補の一角だ。

いきなりの難敵。だが、望むところだ。

ふと横を見ると、別ブロックにいるバルガスが、こちらを見て不敵に笑い、親指を立てた。

『(上で会おうぜ)』

俺も小さく頷き返した。

審判(アンパイア)代わりの号砲が、王都の空に響き渡る。

俺たちの『全国大会(シーズン)』が、幕を開けた。

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