第14話:『戦術(ことば)』と『基礎(はじめ)』
ギルドから宿舎への帰り道、俺はパティに『鉄壁(ゴールドグラブ)』と評されたチーム(ピジョンズ)の、次なる課題を考えていた。
(守備(ディフェンス)はミーナのおかげで固まった。だが、『攻撃(オフェンス)』が機能していない)
(ガルムの『パワー(大振り)』も、リゼッタの『スピード(エラー)』も、まだ素材のままだ)
翌日、俺は全員をベースリアの公認訓練場に集めた。
「ミーナが加入し、俺たちの『守り』は格段に良くなった。だが」
俺は、メンバー全員を見渡して言った。
「今のままじゃ、俺たちは『点(ヒット)』を取れない。『攻撃(オフェンス)』の練習(キャンプ)を開始する」
「待ってました!」
俺の宣言に、ガルムとリゼッタが(予想通り)意気込んだ顔を見せた。
「おうよ、監督! もっとパワー(火力)を出す訓練だろ!」
「私、もっと速く走る(移動する)練習をします!」
「「……」」
その二人の返事を聞いて、俺と(腕組みをしている)ミーナは同時にこめかみを押さえた。
(……ダメだ、こいつら、根本(こんぽん)から分かってない)
「はぁ……」
ミーナが、ギルド加入後、一番深いため息をついた。
「……あのな、エラー娘(リゼッタ)。あんたは『足(スピード)』があるのに、敵に『触(さわ)る』ことさえできずに転(こけ)とる。話にならん」
「うっ……」
「大振り(ガルム)。あんたは『(敵を)吹っ飛ばす力(パワー)』だけはあるのに、そもそも『斧(それ)』が敵に『当たらん』。もっと話にならん」
「なっ……!」
ミーナの辛辣な『分析(ヤジ)』が飛ぶ。
俺は一歩前に出た。
「ミーナの言う通りだ。二人とも、素材(パワーとスピード)はいい。だが、『確実性(打率)』がゼロだ」
俺は、困惑する二人に向かって、俺の世界の『戦術(ことば)』を口にした。
「今日、お前らにやってもらうのは、『バント』と『ミート打法』だ」
「「「……?」
ガルムとリゼッタだけでなく、ルナリア、そしてミーナさえもが、眉をひそめて首をかしげた。
「……監督(あんた)はん。また奇妙な儀式(チャンテ)の名前か? 意味のわからん『ヤジ(指示)』は、混乱(エラー)の元やで」
「ヤジじゃない、れっきとした『戦術(さくせん)』だ!」
俺はまず、リゼッタに向き直った。
「リゼッタ。お前は今日から『剣で敵を倒す』のを禁止する。代わりに、この短剣(ダガー)を使え」
「え? こ、これですか? でも、これじゃあ魔物(てき)は……」
「倒さなくていい。それが『バント』だ」
俺は、訓練場の端に設置されている、魔力に反応する小さな『的(まと)』を指差した。
「お前の『攻撃(しごと)』は、あの的に**『当てる』ことだけ**だ。当てたら、何があっても(コケても)いいから、こっちの『安全地帯(ベース)』まで全力で戻ってこい!」
「そ、そんな……『当てるだけ』なんて……」
リゼッタは不安そうだ。
だが、その時、俺の背後でミーナが「……なるほどな」と呟いた。
振り向くと、彼女は『千里眼(アナライズ)』でリゼッタと的を分析し、ニヤリと笑っていた。
「……『攻撃(ふりかぶり)』の動作(モーション)を最小限に抑え、敵の意表(タイミング)を突き、『エラー(失敗率)』の発生確率(リスク)をゼロにする……。その上で、あんた(リゼッタ)の唯一の取り柄(とりえ)である『足(スピード)』だけで『生き残る(きりぬける)』……か」
ミーナは、俺を値踏みするように見た。
「……監督(あんた)の言う『当てるだけ』、か。ふん、合理的(ええやりかた)やないか」
(……すげえ。俺の『説明(当てるだけ)』を聞いただけで、俺がやらせたい『戦術(コンセプト)』を『千里眼』で完璧に理解(みぬ)きやがった……!)
「次にガルム!」
俺は、興奮を抑えてガルムに向き直った。
「おう! 俺は何をぶっ壊せばいい!」
「何も壊すな。お前は『ミート打法』だ」
「「?」」
(こっちはミーナも分からんか)
「ルナリア!」
「は、はいっ!」
「悪いが、ガルムの練習(バッティング)に付き合ってくれ。あそこから、ガルムに向かって『魔力弾(ボール)』を撃ってほしい」
「わ、分かりました!」
「あ、でも、絶対に当てるなよ? それと、威力(スピード)は『加減』してくれ」
「……か、加減、ですか……?」
ルナリアが、一瞬、不安そうな顔で自分の手のひらを見つめた。
(ん……? 今の反応は……)
だが、彼女はすぐに「りょ、了解です!」と笑顔で頷き、訓練場の端に立った。
俺はガルムに向き直る。
「ガルム。お前の『攻撃(しごと)』は、ルナリアが撃つ魔力弾(ボール)を、『避ける』でも『壊す』でもない。……その斧(アックス)の『面』で**『力を流して』**、あっちの『的(まと)』に『当てる』ことだ」
「……あァ?」
ガルムは、俺が指さした『的(まと)』(リゼッタの的とは別の場所にある)を見て、怪訝(けげん)な顔をした。
「なんだそりゃ! まどろっこしい! あんなもん、俺の斧(パワー)でぶっ叩きゃ……!」
「それをミーナが『大振り(三流)』だと言ってるんだ!」
俺は、初めてガルムに声を荒げた。
「お前の『パワー』は、当たらなければ『空振り(エラー)』だ! チームが本当に苦しい時(チャンス)に、『空振り(三振)』する4番(エース)がどこにいる!」
「うっ……」
「いいか。これはお前のパワー(力)を、『点(ヒット)』に変えるための技術(テクニック)だ!」
ミーナが、再び腕を組んで分析(アナライズ)している。
「……なるほどな。『全力(パワー)』で叩き潰す(ゼロかヒャクか)んやなく、『力(パワー)を流して』確実に『当てる(イチ)』を狙わせる……。あの『大振り(ガバガバフォーム)』の『隙(エラー)』を消すための『基礎(フォーム)練習』っちゅうわけか」
彼女は、ふん、と鼻を鳴らした。
「……監督(あんた)の言う『力を流す』、か。ふん。地味やが、あんた(ガルム)みたいな『三流(まぐれ当たり)』には、お似合い(ぴったり)の練習やな」
「なっ……地味だと!?」
ガルムが反論する。
「やかましい! 『基礎(フォーム)』ができてへんやつに、応用(試合)なんか百年早いわ!」
ミーナの辛辣(しんらつ)な『ヤジ(ゲキ)』が飛ぶ。
かくして、俺たちのチーム(ピジョンズ)の、地味で、過酷な『基礎(バッティング)』練習が始まった。
リゼッタの『エラー(癖)』との戦いと、ガルムとルナリアの『パワー(暴走)』との戦いが、今、始まろうとしていた。
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