第13話:『鉄壁(ゴールドグラブ)』と『週刊ベースリア』
ダンジョンからの帰り道、ガルムとルナリアは、まるで優勝したかのように騒いでいた。
「おい、見たかよ! ミーナ! お前の言う通り、槍ごと叩き割ってやったぜ!」
「私だって、詠唱を短縮したのにあの威力ですよ! やりました!」
そんな二人に対し、ダンジョンの入り口で腕を組んだミーナは、冷(ひ)や水を浴びせるように言い放った。
「……ふん。まぐれ当たり(ラッキーヒット)や。あんた(ガル厶)のスイング(フォーム)はまだガタガタやし、あんた(ルナリア)は魔力(リソース)の配分(ペース)を考えとらん。あんな『全力投球(フルスロットル)』、3回(スリーイニング)も保たんで」
「「うぐっ……!」」
第12話での完璧な『指示(リード)』で勝利に導かれた手前、二人は何も言い返せない。
(……すげえ『反省会(デバフ)』だ)
俺は苦笑しながら、新しく加わった『扇の要(キャッチャー)』の背中を見た。
彼女のおかげで、ルナリアの『暴投(エラー)』も、ガルムの『空振り(エラー)』も、リゼッタの『暴走(エラー)』さえも、全て『守備範囲(想定内)』になった。
間違いなく、チームの『守備(ディフェンス)』は格段に安定した。
(だが……)
俺は、ミーナに食って掛かろうとしてやめているガルム(パワー)と、オロオロと二人を見比べるリゼッタ(スピード)を見る。
(守備(ディフェンス)は固まった。だが、あの戦闘(ゲーム)、俺たちは『勝った』というより、ミーナの『指示(リード)』で『勝たせてもらった』だけだ)
ガルムの『大振り』も、リゼッタの『エラー』も、根本は何も解決していない。
今のままでは、俺たちは「守る」ことはできても、自分たちから「点を取りにいく(攻める)」ことができない。
そんなことを考えているうちに、俺たちはギルドの重い扉の前に着いていた。
「……監督(あんた)はん。なんか、見られとるで」
ミーナが、ギルド内の空気を察知して呟く。
扉を開けると、冒険者たちの視線が一斉に俺たちに集まった。
(なんだ……? この、ビジター球場で試合(ゲーム)が始まった時みたいな、独特の空気は……)
「――特ダネ(スクープ)ですっ!!」
その声を待っていたかのように、カウンターの横から一人の女性が飛び出してきた。
「パティさん!?」
「待ってましたよ、慎吾『監督(マネージャー)』! 『エラー娘』リゼッタ選手!」
『週刊ベースリア』の記者、パティが、興奮で目を輝かせている。
「ゴブリンシャーマン討伐、おめでとうございます! まさか、あのクエストを『エラー』なしでクリアするとは!」
「え、いや、エラーは(リゼッタが)してましたけど……」
「いいえ!」
パティは俺の言葉を遮り、ペンを握りしめた。
「『結果(リザルト)』として、パーティの損害(エラー)はゼロ! それは『エラー』とは言いません! 『計算された戦術(ファインプレー)』です!」
パティの視線が、俺の後ろに隠れるように立っていたミーナを捉える。
「そして、そちらは……! やはり『千里眼のミーナ』選手! バルガス一味(アイアン・ブルズ)からFA(フリーエージェント)宣言したと噂の、超A級『守護戦士(キャッチャー)』!」
「……っ!?」
ミーナが、ギルド中に響く大声にビクリと肩を震わせる。
「(……誰や、このやかましい『ヤジ屋』は……?)」
ミーナが、俺を睨みながら小声で毒づく。
(ヤジ屋じゃなくて記者だ……!)
パティの勢いは止まらない。
「ついに『電撃移籍(トレード)』ですか!? あの『ワンマン監督(バルガス)』の元を離れ、このビジター(よそ者)の『謎の監督(慎吾)』のチームを選んだ決め手は!? 年俸(サラリー)ですか!?」
「は……はぁ!? ちょ、あんた、馴れ馴れしいわ!」
ミーナが、真っ赤になってパティに噛みつこうとする。
だが、パティはそれを片手で制し、今度は俺に向き直った。
「慎吾監督! あなたは、リゼッタ選手を『再生(復活)』させ、今度はミーナ選手まで『獲得(スカウト)』した! この『辣腕(らつわん)』の秘密は!?」
「いや、俺は別に……」
「――報告(レポート)は、以上ですか」
その時、パティの興奮(熱)を凍らせるような、冷たい声が響いた。
ギルド受付嬢のエルミナが、銀縁眼鏡の奥から、冷徹な視線で俺たちを見ていた。
「あ、はい。ゴブリンシャーマンの討伐、完了です」
リゼッタが慌てて素材を提出する。
エルミナは、手元の分厚いファイル(スコアブック)をめくり、淡々と告げた。
「……受理します。データ(数値)を確認。リゼッタ選手の任務失敗率(エラー)、前回比で15%減少。ルナリア選手の詠唱成功率(ストライク率)、8%上昇。ガルム選手の攻撃命中率(打率)、11%上昇……」
エルミナが、淡々と(しかし、わずかに目を見開いて)数値を読み上げていく。
「……そして、新加入(エントリー)、ミーナ。『守護戦士(キャッチャー)』としての被弾(パスボール)率、0%。パーティ全体のエラー(守備妨害)カバー率、45%」
ギルド内が、水を打ったように静まり返った。
「エラーカバー率……45%!?」
「あの『エラー娘』のパーティが……!」
パティが、興奮で震える手でメモ帳を握りしめている。
「『鉄壁の守護神(ゴールドグラブ)』、爆誕! これは明日の一面(トップ記事)ですよ!」
エルミナは、パチン、とファイルを閉じた。
彼女は、初めて眼鏡の奥の瞳で、慎吾を真正面から見据えた。
「……『イレギュラー(例外)』な数値です。あなたの『マネジメント』は、チーム(組織)全体の『エラー(損失)』を最小限に抑える、極めて有用な『能力(スキル)』だと、データが示しています」
「あー、もう! やかましいわ! 帰るで、監督(あんた)!」
ミーナは、顔を真っ赤にして叫ぶと、俺のユニフォームの裾を掴んで、ギルドの出口へ引っ張っていった。
「あ、待ってください、ミーナ選手! 監督! 今のお気持ちを!」
パティの声を背中に浴びながら、俺たちはギルドを後にした。
(……『鉄壁の守護神』、か)
パティの言葉が頭に残る。
確かに、ミーナの加入で俺たちの『守備(フィールド)』は完成した。もう「エラーだらけ」とは言わせない。
(だが、それだけじゃ勝てない)
俺は、ミーナに引きずられながら、隣を歩く二人を見る。
(ガルムの『パワー(大振り)』も、リゼッタの『スピード(エラー)』も、まだ素材のままだ)
ホームランか三振かの『大振り(ガルム)』。
塁に出ることさえできない『俊足(リゼッタ)』。
(守備(ディフェンス)は固まった。次は、『攻撃(オフェンス)』だ)
俺たちには、この二人の『武器』を確実に『得点』に繋げるための、『戦術(バントやヒットエンドラン)』と『技術(ミート打法)』が、決定的に足りなかった。
社会人一年目の『監督』の、本当の『采配(マネジメント)』が、今、始まろうとしていた。
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