Ⅱ ハロウィンの行事
わたしは二十代後半の、結婚を期に仕事を辞めた専業主婦である。まだ子供はいない。
夫はそれなりに大手の商社マンで、そこそこ稼ぎもよいので都内のタワーマンションに住んでいるのだが、そこは欧米系の在日外国人も大勢入居していた。
なので、自治会の行事としてアメリカ式のハロウィンイベントを行ったりもしている。
即ち、観賞用カボチャを顔状にくり抜いたランプ──〝ジャック・オ・ランタン〟を作ったり、部屋のドアに骸骨や蜘蛛の巣なんかのホラーな飾りつけをしたり、こども達がコスプレをして「トリック・オア・トリート?」とお菓子をねだって各戸を廻ったりするわけである。
「── トリック・オア・トリート〜!」
夕方、同じマンションに住むこども達が訪ねて来て、やはりコウモリの飾りを付けた我が家の玄関でその決まり文句を声を合わせて叫ぶ。
どの子もドラキュラやスクリーム、魔女やジェイソンなどなど、いずれもホラーネタの仮装をした可愛らしいおばけ達だ。
「はいはい。お菓子をあげるから悪戯しないでね」
わたしはそのおばけ達を笑顔で迎え入ると、用意しておいたお菓子入りの小袋をそれぞれに一つ与えた。
ちなみにわたしはお菓子作りが趣味なので、自分で作った手製のキャンディやらキャラメルやらクッキーやらを一個づつ分けて入れたものだ。
「おばさん、ありがとう!」
お菓子を受け取ったこども達は、また大きな声を合わせて元気にお礼を言う……この歳で〝おばさん〟呼ばわりは心外だが、まあ、こども達にしてみればそう見えるのだろう。
そうして、きゃっきゃと騒ぎながら帰ってゆくこども達を見送るわたしも、自然とほっこり笑顔を浮かべてしまう。
わたし達夫婦にはまだ子供がいない……だから、そんなこども達の姿を目にすると、子供のいる生活に憧れを感じたり、いろいろと思うところもあるのだ。
「さて、そろそろ夕飯の支度をしなくっちゃ……」
ともかくも、これで本日のメインイベントも終了である。時間もちょうど頃合いになったことだし、わたしは旦那と自分の分の夕飯を作る、いつもの生活ルーティーンに戻っていった。
ただし、今日はハロウィンなのでカボチャを使ったパンプキンシチューや、自家製の目玉型のゼリーを乗せたアイスのデザートなどのスペシャルメニューだ。
子供はいないが、こうして年中行事や記念日などはできるだけ生活に取り入れるようにして、それなりに楽しく日々を過ごしている。
今日は朝からこども達にあげるお菓子作りをしていたので、キッチンは散らかったままになっている……そのキッチンで、わたしは食材を冷蔵庫やストック棚からとり出すと料理を始めた。
まずはカボチャをレンジでチンし、柔らかくしてから皮を剥いて適度な大きさに切り分ける。それからミキサーにかけてペースト状にしたものを使い、ポタージュのようなシチューにするのだ。
さらに鶏肉やタマネギ、ニンジンなんかも一口大に切り、塩コショウ、ニンニク、鷹の爪とバターで炒めてから、カボチャペースト、牛乳、コンソメと合わせて鍋でコトコトと煮込んでゆく……。
「よし。できた……あとはサラダね」
しばらく煮込んでシチューができると、次はサラダにとりかかる。〝目玉ゼリー〟はすでにできているので、食べる際に赤いベリーソースとともにアイスに乗せるだけだ。
だが、まな板の上の新鮮なトマトを切ろうとしていた矢先、再びピンポーン…! と玄関のチャイムが鳴り響いた。
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