第10話
千秋と別れたあずさは、いつもの見慣れたアパートの前に着いた。
部屋は、真っ暗だった。
携帯を出すと、いつの間にか智衣から「今日は、遅くなる」と、ラインが入っていた。
しばらくあずさは、アパートの部屋を見上げていた。
ふと、足もとで何かが触れた。
シロが、すり寄ってきたのだった。
「シロ」
あずさはシロをゆっくり抱き上げ、ドアの鍵を開け部屋の中に入った。
電気をつけるとシロは、するりとあずさから飛び降りクッションの上に座った。
あずさは冷蔵庫から魚を出し、換気扇を回して魚を焼き始めた。
魚を焼いている間、あずさは流し台に寄りかかりぼんやりしていた。
魚を焼く焦げ臭い匂いで、あずさは我に返った。
ご飯を炊いていないし、夕飯の支度もしていない。
魚が焼きあがり、シロの皿にほぐした魚をのせた。
「シロ、ごめんね。今夜は魚しかないの」
言いながらあずさは、シロの前に、お皿を出した。
シロは、魚が冷めてから食べだした。
あずさはシロの側で、膝を抱えて座った。
千秋が智衣に、執着をするなんて。
智衣、私の知らないとこで何かしたの?
シロがビクッと顔をあげると、智衣の声が聞こえた。
「ただいま」
「お帰り。今日、ライン見ていなくてご飯、まだなの」
「いつまでも既読が付かないから、そんなことだと思った」
智衣は、スーパーの袋を手にしていた。
「スーパーで適当に惣菜を買ったから、温めて食べよう」
簡単な食事はあっという間に終わった。
あずさが片付けをしている間、智衣はタバコを吸ってくつろいでいた。
洗い物を終えたあずさはシロの側に行って座ると、シロの背中をそっとなでた。
タバコを吸い終えた智衣が言った。
「来週、アトリエの方に行くから」
「そう」
あずさは、シロの背中をなで続け顔を上げずに返事をした。
「アトリエに行ってみるか?あずさのバイトが休みの日に」
この言葉にあずさは顔を上げ、智衣をみつめた。
「行っても良いの?」
「行ってみたいんだろ?アトリエ」
「うん!」
やっとあずさは笑顔になり、智衣はあずさの笑顔にほほ笑んだ。
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