共犯者2

kagari

第1話

 街頭の少ない、繁華街の裏通りにあるラブホテル。

 女は少し前に、スーツ姿の中年のサラリーマンに声をかけ、男とラブホテルに入った。

 部屋に入り、しばらく身の上話をして、女は男からお金を受け取り、ふたりはベッドで抱きあった。

 見知らぬ男との情事の後、女はベッドに座ってタバコを吸っていた。

 男はシャワーを浴びに、浴室に入って行った。

 やがて浴室の方から、シャワーの音が聞こえてきた。

 女はタバコを消し、男が持っていたカバンの中身を探った。

 カバンの中から、書類と財布と名刺ケースが出てきた。

 女は書類と名刺ケースをカバンの中にしまい、財布だけ出した。

 財布の中身を見るとお金以外に、免許書が入っていた。

 女は財布から免許証を抜き取り、免許証に記されていた名前を読んだ。

 男は、偽名を使っていなかった。

 女はホテルの部屋にあったメモ帳を破り、免許証に記してあった男の名前と住所を書き出した。

 メモを、自分のバッグにしまうと、シャワーの音が止まっていたことに女は気が付いた。

 慌てて免許証を財布にしまい、財布を男の持っていたバッグに戻した。

 上半身裸にスラックスを履いた男が、浴室から出てきた。

 入れ違いに女は浴室に入り、シャワーを浴びた。

 シャワーを浴び終え、洋服に着替え、脱衣所を出た。

 男はスーツ姿でソファーに座っていた。

 女は男の隣に座り、タバコを吸いだした。

 男は、小さなため息をもらした。

「ため息なんてついて。今頃、罪悪感でも感じているの?」

 タバコを吸いながら言う女の言葉に、男は何も答えなかった。

 女はちらりと、男の横顔をながめた。

 男の髪は、白いものが目立っていた。

「五十……六だっけ?」

「おやじが何、若い娘を抱いているんだと、バカにしたいんだろ?」

 うつむいたまま言う男に、女は笑いながら、タバコを消した。

「そんなこと、思っていないよ。アタシだって、年のわりに、老けて見えるでしょ」

 女は、二十代後半。

 小柄な体つきで幼く見られがちだが、生気がなく疲れた感じがして、三十代と言っても、いいくらいだった。

「彼氏は、いないのかい?」

「いたら、こんなことしないよ」

「それも、そうだな」

「おじさんって、叱ったりしないんだ」

「叱る?」

「こう言うことは、やめなさいとか。もっと、自分を大事にしなさいとか、言わないんだ」 

「お金払って、若い娘を抱いて。そんな立派なこと、言えないよ」

「皆そんな、おやじだったら良いのに」

「言われたことが、あるのかい?」

「必ずってほど、言われるよ」

「勝手な人間ばかりだな」

 男は、吐き捨てるように言った。

 そんな男に、女はやさしく言った。

「さっ、もう出よう」


「おじさんと、つきあいたいんだ」

 別れ際に突然言った女の言葉に、男は驚いて女をみつめた。

 女はもう一度、男に同じ言葉を繰り返した。

「しかし私は、もう年寄りで……」

「でも、おじさんは独り者なんでしょ。だったら、いいじゃない」

「君は、もっと若い男性とつきあった方が、幸せになれるよ」

女は男に抱きつき、男の胸に顔を埋めた。

「おじさんが良い!おじさんと、一緒にいたい!」

 男は女を抱きしめ、女はそっと男を見上げた。

「おじさん」

 男と女は抱き合ったまま、キスをしたのだった。

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