第3話 石の死

「えっ?」

「人に生まれ変われる保証なんて無いって言ってんの」

戸惑っている男にすこしイラつきながら石は話し出す。


「自分の都合で死んじまって、また人間に生まれ変わるだなんてずいぶん都合が良い考え方じゃないか?生まれ変わるのは人間じゃなくて、他の動物や虫になるかもしれないぞ!」


正論をたたきつけられて男は言葉を発せない

石はさらにまくし立てる

「虫ならまだいいよ。すぐに死んでまた生まれ変われるからな。一番最悪なのは・・・」

男は石の言葉を復唱する

「最悪なのは・・・?」

石は少しの間を開けて

「石だ!」と叫んだ


驚いた男は再び言葉を飲み込んだ


「石に生まれ変わった自分を想像したことはあるか?」

石の質問に男はうつむくしかなかった。石に生まれ変わった自分なんて想像したことなんてなかった。

「しかもこんな森深くにある河原の石なんて、もう誰とも接点なんかありゃしない」

石は長年のつもりに積もった愚痴をいうように話をつづける

「雨が降れば、びしょ濡れになるし、雨が止むまで待つしかね。雨宿りすらできねぇ。雪が降れば春まで冷たい雪の名。どんな困難も受け止めてじっと待つしかねぇんだ。そもそも石から生まれ変わるにどうしたらいい?」


「石の死ってなにかね?」


男は石の言葉を噛みしめていた。

自分が一番つらいと思い込んでいたことに気が付いた。

自分の知らない所でもっとつらい状況の存在がいることに気が付いた。

どんなにつらいことがあっても人間として行けていける自分の幸せさを

気づけずにいた自分を恥ずかしく感じてきた。


「そうだな。こんな事で死ぬなんてもったいねぇ」

男はすっかり前向きにとらえられるようになっていた


男は石を再び拾い、握りしめると自宅に向かって走り出した

表情は往路とは全く変わっていた



日もすっかりのぼった頃、自宅にたどり着いた男は

物置から金槌を取り出して、思い切り石を叩いた

石は粉々に砕け散って 言葉を発することはなかった

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