第7話
ふとした事で子供の頃を思い出したので書く。僕が多感な少年時代を過ごしたのは2000年前後の頃だ。とはいえ、現代と生活が変わっているかと言われれば、そんなことはあまりない。世の中が少しばかり便利になったことと、目にする線の数と種類が増えたことくらいなものだ。電話もファクスもテレビもゲームも変わらない。インターネットの台頭により、選択肢が増えた程度で、今も昔も変わらなく生活している。
当時少年だった僕は、ゲームと漫画が趣味くらいの、クラスの男子に数人くらいいる少年の1人だった。小学校、中学校、高校といずれも同じような生活だったかと思う。特に問題を起こすわけではない、普通の子供だったであろう。
いわゆるモンスターを捕まえて交換して育てるゲームがあった。今でもシリーズが出ている人気シリーズだ。僕の世代は丁度最初のシリーズが出て直撃した世代だった。その年は家で、学校で、塾で。話題にしなかった日が少なかった気がする。
携帯ゲーム機末期と言われた時に出したそのソフトは、有終の美を飾るどころかハードの寿命を倍に延命したほどに影響を与えた。
そしてそのゲームも、それから出たフォロワーも、通信を要に置いていた。故に、ケーブルが必要であった。今でこそゲーム機にコネクタ搭載は必要条件でもあるが、昔は専用ケーブルだった。
幸い、我が家にはそれがあった。父がゲーマーであったこともあり、そして同じゲームをしていたこともあり、半ば必然であったと言えるだろう。互いに一本ずつ所有し、父は父で会社の同好の人と、僕は僕で友達とで使い、また家の中で父とも使用した。
当時は通信ケーブルを所持している人口は少なく、僕が友人達の中で一時的にでも中核に位置したことは、交友の輪が広げてくれたと言えよう。
しかしある時、通信ケーブルを無くした。幸いにブームも落ち着いてケーブル持ちが増えたことと、父が持っていることで不都合はなかった。父に逸した事を告げると「まあ、ケーブルは無くしやすいからな」と言った。新しいケーブルを買おうかと言われたが、決まりが悪く丁重に断った。
さて、長々と書いたのはそのケーブルが出てきたからだ。
今日……もう昨日になってしまったが、実家に帰ったついでに近所のゲーム屋(ゲームとか本とか雑貨とか置いてる大きめのやつ)に行った折、当時の友人と鉢合わせした。世間話や思い出話に小さく花を咲かせていると、彼は思い出したように言った。
「そういえばさ、お前通信ケーブル無くしたって言ってたよな。あれ、俺ん家にあるかも。ちょっと前に引越しする事になって、荷物整理してたら通信ケーブルが2本出てきてさ、俺が間違って持ち帰ったか俺ん家に来た時に忘れていったんじゃねーかな」
なるほど。それはあり得る。僕がわざわざ持ち出さなくても良くなった頃だから、無くした僕自身もいつの間に、という気持ちだったからだ。
「もうわざわざ返すようなもんじゃないかもと思ってたけど、こうして会えたんだ。返すよ」
僕は頷き、日を改めて酒の席を設けて会う事になった。懐かしい顔も呼んでくれるようだ。
無くした通信ケーブルは、無くなりかけた縁を繋げてくれたようだ。
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