第3話:重力バグと、孤高の科学少女
1.中庭の異常と、デバッガーの役割
旧放送室から中庭へ向かう途中、俺の緊張は最高潮に達していた。隣では、ひかりが俺の腕を力強く掴み、まるでピクニックに行くかのようにワクワクしている。前を歩く咲耶は、いつもの冷静さを保っているが、その足取りには戦闘前の鋭さがあった。
中庭の西側エリア—―普段は生徒たちがランチや談話に使う、木々が植えられた一角に、異常は発生していた。
誰もいないはずなのに、そのエリアだけ、植え込みの葉や、放置されたゴミ箱が、奇妙な動きをしていた。
フワリ… ドスン…
まるで、見えない誰かが乱暴にそれらを持ち上げ、叩きつけているようだ。
俺の視界には、バグを示すウィンドウが点滅している。
【Gravity Fluctuation - Localized】
「悠斗。バグの原因特定を急いで。重力変動の範囲が拡大している」咲耶が指示を出す。
俺は、ウィンドウに表示される数値と、周囲の状況を重ね合わせる。
「はい!バグの原因は…どうやら、このエリアの地下から、異常な**『エネルギーノード』**が干渉しているみたいだ。重力の変動は、ノードの暴走によって引き起こされている」
俺は、地面の特定の場所を指さした。
「あの辺り!あのノードを、何らかの形で『固定』するか、『沈静化』させないと、バグは収まらない!」
「固定、ね」咲耶は、俺が指し示した地面を冷静に見つめる。
「天宮。私がノードの周囲の空間の熱エネルギーを奪い、一時的に**『凍結(フリーズ)』させて運動を抑制する。その一瞬の隙に、あなたが『加速(ブースト)』**能力を使って、ノードを物理的に地面に叩きつけて動けなくして!」
「了解!咲耶ちゃんの『フリーズ』に合わせるね!」
<h4>2.二人の『修正者』の連携</h4>
咲耶が前に出る。その瞬間、彼女の周囲の空気が、急激に冷え込んだ。
ヒュウ…
大気が凝結するような音と共に、咲耶の白い手が光を放つ。その光は、地面のノードがある場所へと向かい、瞬時に地面の表面を薄い氷で覆い尽くした。
「今よ、天宮!」
「ブースト!!」
ひかりが地を蹴る。運動靴が地面を軋ませ、まるで弾丸のように、彼女は目標地点へと向かった。その速度は、肉眼で追うのが困難なレベル。
ひかりは、能力で加速させた拳を、地面に埋め込まれたノードの中心に向けて叩きつける。
ドゴオォォン!
通常ならただの地面だが、エネルギーノードの干渉で硬質化していたのだろう。衝撃音と共に、地面は深く凹み、ひかりの拳がめり込んだ。
「やった!ノード、止まったよ!」
しかし、その直後、異変が起こる。
【Warning: Bug Activity Level Rising - Node Containment Failure】
俺の視界の警告が、再び赤く点滅し始めた。
「待て、ひかり!収束してない!ノードが、能力に反発して暴走を始めた!」
地面に埋まったはずのノードから、突如、激しい重力の波が放出され始めた。
グルルル…
周囲の空気が歪み、重力が異常に変動する。ひかりの体が、強すぎる重力によって地面に縫い付けられる。
「くっ…重い!体が、動かない…!」
咲耶の「フリーズ」が追いつかない。彼女自身も、重力変動の影響で膝をつきかける。
「…しまった!想定以上のエネルギーだわ!」
俺もまた、体が重力に引っ張られ、立っているのがやっとの状態になる。このままでは、二人とも重力に押し潰されてしまう。
<h4>3.孤高の科学少女と、『無効化(キャンセラー)』</h4>
絶体絶命のその時、重力変動の中心に、一人の少女が颯爽と飛び込んできた。
白衣を纏った、冷静な目つきの少女。**霧島 凛(きりしま りん)**だ。
彼女は、学園の誰もが知る天才。常に実験室に篭り、理論物理学を研究している孤高の科学少女だ。
「予測はしていたけれど…全く、相変わらず手荒い修正ね、柊木」
凛は、手にした小さな金属製デバイスを重力変動の中心、ノードの真上に静かに放り投げた。
「佐倉君。あなたが検知した**『ノードのエネルギー波長』**を教えて」
その言葉に、俺はとっさに視界に表示されている情報を叫んだ。
「エネルギー波長!…2.7ギガヘルツに急上昇!不安定です!」
凛は、デバイスを操作しながら、冷たい視線で咲耶とひかりに言った。
「私が**『無効化(キャンセラー)』**で、この2.7ギガヘルツ帯のエネルギー干渉だけを一時的に打ち消す。あなたたちの能力の負荷をゼロにするから、その間にノードを完全に破壊しなさい」
「無効化…!?」
凛のデバイスが、青白い光を放った瞬間—―。
ピタリと、重力変動が止まった。
身体にかかっていた重圧が、嘘のように消える。咲耶とひかりは、一瞬で自由を取り戻した。
「今よ!」咲耶が叫ぶ。
二人は、能力の全出力を以て、ノードに向けて攻撃を仕掛けた。咲耶の**『フリーズ』でノードを極限まで硬化させ、ひかりの『ブースト』**による連続的な衝撃波で、それを粉々に砕く。
カシャアアアアアン!
ノードはガラスのように砕け散り、その場にあった重力バグの兆候は、完全に消滅した。
俺の視界の警告ウィンドウも、瞬時に**【Bug Corrected - System Stabilized】**へと切り替わった。
「…終わった」
呆然とする俺の横で、凛はデバイスを回収し、白衣のポケットにしまった。
「佐倉悠斗。あなたが、この世界の**『デバッガー』**ね。あなたの検知能力は、私が開発したどの測定器よりも正確だわ」
凛は、俺に手を差し伸べた。
「私、霧島 凛も、今日から『放課後チート同盟』に参加する。能力は、特定のエネルギー干渉を一時的に**『無効化』**するサポート特化型。チームの技術開発・分析も私が担当する」
「…これで、チート同盟の主要メンバー、三人目」
咲耶は、凛の登場に少し不満げな表情をしたが、すぐに表情を引き締めた。
「これで、アタッカー、サポーター、ブレインが揃ったわ。佐倉悠斗。あなたは、私たちの**『頭脳』**として、この世界を救う義務がある。逃げ場はないわよ」
美少女たちに囲まれ、世界の裏側を知ってしまった俺の、冴えない放課後は、もうどこにも存在しなかった。
—―第3話 完—―
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