ヤンデレが主導権を握れないラブコメ
揚羽常時
第1話:転校生はメイドに出会う
「君の以前の高校については聞いているよ。ものすごい進学校じゃないか。何故うちに?」
私立米糠高等学校。どういう経緯で学校名に米糠を採用したのかは俺にとっては永遠の謎なのだが、まぁそれはいいとして。興味深そうに聞いてくるゴシップが好きそうな声音の女性教諭は、俺を試すように見ている。
「ちょっと距離取って偏差値もそんなに変わらない学校ってなると、ここが妥当だったんで」
私立米糠高等学校は東京二十五区の柳原区に存在する進学校だ。偏差値そのものは、以前の学校ほどではないが、それでも高い偏差値を維持している高校で、一部の高名な大学を目指している学生は特進クラスに囲って勉強三昧らしい。俺的には将来の青写真は無いので、一般化のクラスに入っていた。別に頭が悪いわけじゃ無いが、それはそれとして自分にプレッシャーをかけるのも俺の本意でもないのだ。
「編入試験も素晴らしい成績と聞いた。特進クラスに行かなくてよかったのかい?」
「勉強はどこででもできますから。教室の違いで影響するような勉学はしていませんので」
興味津々とばかり聞いてくる教師に、俺はダルそうに答えて、実際に怠かった。
「伏見さんはしっかりしているんだね」
しっかりしていたら、二年生の五月に転校する理由もねーだろう……とは思ったが、ソレを行ってもしゃーないので黙秘。
「じゃあここが教室だ。私が担任……とはすでに言っていたね。とにかく君は今日から二年二組の仲間だよ。声をかけたら入って来てくれ」
そして優しそうな女の先生がホームルームを始めるために教室に入り、俺は学内用のタブレットを専用のバッグに入れて、そのまま待機。
「じゃ、今日は転校生を紹介します」
その言葉に教室がざわついた。もちろん俺も転校生としてのプレッシャーも感じないわけでもないので微妙な表情にはなったが。
「ちなみに男子には申し訳ないが転校生は男子だぞ」
「えー」
「つまらん」
「そこは美少女転校生だろ」
言っている意味は分かるが、今更肉体造り変えるわけにもいかんし、男のままで入室しよう。
「じゃ、伏見さん。入ってきて」
「どもっす」
言われて入って、そのまま教室の教壇に立つ。
「というわけで伏見ネバダさんだ。みんな、仲良くするように」
「よろしくお願いしまぁす。美少女からは懸想文。それ以外からは現金書留。常に募集していますので遠慮なくどうぞ」
ヒラヒラと手を振って、それから自己紹介もせずに席に直行。即席で作られた俺の席は窓際最後方で。まるでラブコメ主人公の属性みたいじゃないかと思ったが、そこはまぁあえてツッコまず。
「…………」
それよりも、ものゴッツい違和感が俺の隣にあった。メイドさんだ。それも欧州にいるようなクラシカルなタイプではなく、メイド喫茶にいるような可愛らしいコスプレ。ピンクと白のチェックは目が痛いようで、実際に愛らしい。フリフリのレース。短いスカート。胸は零れそうなほどデカいのに、ソレを自重しない胸元プルンな性欲を刺激する開いた胸襟。
見るだけで違和感。何がというかどうのというか。フリフリのガーリーなメイド服を着ている女の子は、その髪色も異常だった。白いのだ。真っ白。顔の造形はかなりレベルが高い。いや、かなり、はいらないだろう。異常と言えるまでに可愛い。それこそアイドルでも太刀打ちできないレベル。絶世というか傾城というか。おそらくだが学内に収まらず日本全体で数えても上澄みだろうレベルで可愛い。赤い瞳に添えられている長いまつ毛。唇は桜の花弁のようで。肌なんて超人レベルだ。
「えーと」
その可憐にして愛らしい彼女がメイド服を着ているのだ。俺の視覚がおかしくなったわけじゃ無ければ、可愛い女の子のメイド服。もちろん米糠高校も制服指定。つまり普通は学生服を着ないといけないわけだが。
「なにか?」
「いえ、何も……」
何かの罰ゲームなのだろうか。教室でメイド服を着るということは。俺に何を言えるでもないから、やはり信頼と安心のスルー。そうして朝のホームルームが終わって。
「伏見くん、どこから来たの?」
「親の仕事の関係?」
「連絡先教えてくれない?」
早速数人の生徒が俺に食いついてくる。俺としては隣の席に座っているメイドさんが何を思ってそこにいるのかを聞きたいのだが。
「あー……」
で、ボソボソと自己紹介というか、転校にあたり何をしたのか語って、そうして昼休み。特に親しい友人が出来るわけでもなく。一人でどうしてくれようと悩んでいると。
「もしもし?」
よりにもよってメイドさんが声をかけてきた。
「何か?」
「えーと……そのー……一緒にご飯食べないかな?」
「構いはしないが……名前は? 俺は伏見ネバダ」
「砂漠谷エリっていうんだよ」
おっぱいが零れそうなほど開いた胸襟の、そのムチムチプルンの巨大質量が谷間を作っていて扇情的。ぶっちゃけ挟まれたい。こんな可愛いアルビノの女の子がメイド服を着ているのだ。男子としては目を皿にして見るべきだと思うのだが、どうにもそう思っているのは俺だけらしく。
「なんでメイド服?」
「あ、やっぱり認知してる?」
そりゃするだろ。アルビノ美少女がメイド服だったら。
「とにかく学食に行こっか」
学食があるのか。それは嬉しい情報だ。
「それで伏見くんって?」
「どこにでもいる学生だ」
「ボクが見えているのに……?」
「まさか透明人間とか言わないよな?」
学食でうどんをすすりながら、俺は問う。白い髪を弄りながら彼女……砂漠谷さんはちょっと困ったように言う。
「うん。透明人間かぁ。あながち間違っていないというか」
「間違ってないのか?」
「だってほら」
そして自分のフリルカチューシャをチョイチョイと摘まみながら。
「ボクのメイド服姿に誰もツッコんでいないでしょ?」
こんなご奉仕されたくなるようなメイドがいれば、俺ならガン見する。
「なんでって聞いていいのか?」
「難しい話じゃないんだけど。その。呪われていまして」
「呪われ……」
「誰にも認知されないことを条件に、とびっきり可愛い女の子になるという呪術的縛りを課されており」
「ああ、それで……」
メイド服の砂漠谷さんは誰からもツッコまれないわけだ。
「むしろ伏見くんは何でボクが見える?」
「人より視覚が良くてな」
「呪いの干渉も弾くほど?」
「そう相成る」
学食のうどんをズゾゾーとすすって、俺はコックリ頷く。そしてこっちとしても納得してしまった。呪いか。誰からもスルーされることを条件に美少女で爆乳になるという。大概呪術条件は得たものを帳消しにするように働くものだが、こんな形の条件があるとは。けれど俺にとっては単なる女の子でしかなく。その意味で彼女はヒロインだった。
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