第12話 バトゥとの決闘
「見つけたぞ! 今日こそ俺と決闘をしやがれ!」
バトゥから決闘を申し込まれ、頭を抱えたくなる。
こいつ、まだ諦めていなかったのかよ。本当にしつこいな。俺は必要以上に決闘をする気はないから、できれば避けたいのだけど。
「悪いがお前と決闘をする気はない」
「そうか。お前は怖いんだな。まぐれでエリカ様に勝ってしまったことで、他の奴らから目を付けられて痛い目に遭うのが。まぁ、お前のようなクソ雑魚は自信がないのも分かる。なら、この場で土下座して俺様に謝れば特別に許してやっても良いがな。ギャハハ!」
バトゥがお腹に手を当てて大声で笑い声を上げる。
こいつの狙いは俺との決闘だ。俺をバカにすることではない。わざと腹を立てることを言って挑発することで、決闘をする流れにするのが真の狙いだ。
「何も言い返せないのか? 馬だって足で蹴ったり噛み付いたりして戦うのに、何もしないなんて馬以下じゃないか」
言いたいことは言わせておけば良い。こいつの言葉に反応すれば、決闘をせざるを得ない流れになってしまう。このまま黙秘を続けておけば、バトゥは面白みを感じることなくこの場を去るはずだ。
「チッ、つまらん」
よし、こちらの狙い通りに諦めてくれそうだ。
「オルフェ、あなた言われっぱなしで良いのですか!」
このままやり過ごせると思った瞬間、後方からエリカお嬢様の声が聞こえて振り向く。
長い金髪をゆるふわにしている彼女が、青い瞳で睨むように目を細めて視線を送る。その隣には、彼女のお付きのメイドであるカレンさんが居た。
「俺は好きで決闘をしたい訳ではない。この決闘をすることに対して、俺には何のメリットもないからだ」
俺にもそれなりに理由があることを告げる。すると、エリカお嬢様は口の端を吊り上げた。
「なるほど、オルフェはワタクシのことが大好きで、誰にも取られたくないと思っているのですね」
「な!」
彼女の言葉に深い衝撃を受ける。
エリカお嬢様のやつ、何を言っているんだ? 俺がエリカお嬢様のことを異性として大好きな訳がないじゃないか。
「それもそうでしょう。偶然とは言え、ワタクシに勝ったことでワタクシを嫁にすることが出来ましたもの。簡単には手放したくないですものね」
「何を言っている! そんな訳がないだろう!」
「では、彼の決闘を断る必要はないですよね。ワタクシを手放しても良いと思っているのですから」
くっ、エリカお嬢様はバトゥの味方なのか?
決闘を断れば、俺が彼女を取られたくないから逃げていると思われ、否定すれば決闘を受けなければならない。
そんなことを言われたら、選択肢は一つしかないじゃないか。
「分かった。その決闘を受け入れる」
「決まりだな。手続きは俺の方でやっておく。びびって逃げるんじゃないぞ」
捨て台詞を吐くと、バトゥはこちらに背を向け、この場から去って行く。
面倒なことになってしまった。でも、一度引き受けたからには決闘を取り消す訳にはいかない。
どうしてエリカお嬢様は、決闘を受けるように言ったんだ? この戦いは彼女にとってメリットがない。どっちが勝ってもエリカお嬢様が得をすることはないのに。
決闘を受けさせる真意を確かめようとエリカお嬢様の方に顔を向ける。すると、彼女は俺から背を向け、カレンさんと小声で何かを話しているようだ。
「ご主人様を決闘に挑ませるなんて、余程彼の格好良いところが見たいのですね。嫁として旦那様を応援したいと」
「そ、そんな訳ないじゃないですか。偶然でも、彼はワタクシに勝っていることは事実ですので、あのままバカにされたままでは、このワタクシまでバカにされていることになります。オルフェが戦って勝つことで、ワタクシの威厳が保たれます。それに、勝ってくれればバトゥに付き纏わられることもないでしょう」
「本音と建前が違うようですが、そう言うことにしておきますね」
「だから! ワタクシは本音を言っていますの!」
2人はヒソヒソ話をしているようで、会話の内容は俺には聞こえなかったが、急にエリカお嬢様が声を上げたことで一瞬だけびっくりしてしまう。
「ど、どうかしたのか?」
「いえ、何でもありませんわ。貴方は気にしないでください」
気にするなと言われても、気になってしまう。目の前でヒソヒソ話をされては、俺に関係することを話されているのではないかと思ってしまう。
会話の内容が気になっていると、カレンさんがこちらに寄って来た。そして小声で耳打ちしてくる。
「呪いの件をお忘れなく。もし、ご主人様が負けた場合は呪いが発動して股間が爆発しますので」
「ちょっと待て。あれはわざと負けた場合の話だろう?」
「私からしたら、ご主人様の敗北が本気なのか、わざとなのか分かりません。なので、負けが確定した瞬間に呪いが発動するようにします。別に良いじゃないですか。股間が使い物にならなくなっても、命を失う訳ではありません。セン性として第三の性として生きて行くだけなのですから」
カレンさんの言葉にゾッとする。セン性とは生殖器を失った男性のことを指す第三の性だ。主に性犯罪者の重い罰として誕生する性別だが、セン性になる訳にはいかない。もし、男性器を失えば、性犯罪者でもないのに誤解されてしまう。
この決闘、絶対に負ける訳にはいかない。ムスコのためにも、何が何でも勝ってみせる。
「エリカお嬢様、この決闘は絶対に勝ってみせる。君にどんな意図があって俺たちを戦わせたいのかは不明だが、俺は勝ってみせるから」
「そ、そうですか。なら、ワタクシは貴方の単勝を買うとしましょう。バトゥに賭けるよりも、貴方に賭けた方が回収率が高くなりそうですからね」
意気込みを伝えると、エリカお嬢様は一瞬だけ意表を突かれたかのような表情をみせるも、直ぐに凛とした態度を取り、俺の単勝魔券を購入することを告げる。
それから時間が過ぎて放課後となった。俺は決闘場に辿り着くとリングの上に上がる。
決闘場内にある魔法ビジョンにはそれぞれの現段階での
当然ながら1番人気はバトゥだ。単勝も3.2倍、そして俺の単勝は83.4倍になっている。
前回よりも単勝が下がっていると言うことは、それなりに俺に期待して投資してくれている人が、少しは増えたと言うことなのだろう。誰も負けることが分かっている人物に大切なお金を使うことなんてないだろうから。
『まもなくバトゥV Sオルフェの決闘が開幕となります。この2人の共通点はあのエリカ選手と戦った経験があると言うことですが、バトゥ選手は負け、オルフェ選手は勝っています。この実績は今回の戦いにどのような影響を与えるのか』
そう言えば、俺がアーバンと出会った日に見た決闘って、バトゥとエリカお嬢様の決闘だったな。あの時は人気通りにエリカお嬢様が勝って、俺の単勝魔券は紙屑になってしまったが。
実況者が俺たちの共通点を語り出した直後、
締切ギリギリまで変動する
決闘開始時刻が迫り、バトゥがリングに現れる。
「良く逃げずに来たな」
「当たり前だろう。そっちはずいぶんと遅かったな?」
「ヒーローは遅れてやって来るものだからな」
互いに言葉を投げかけていると、目の前に決闘用のゲートが出現し、俺は中に入る。
『両者共にゲート入りが完了しました。まもなくバトゥ対オルフェの戦いの開始です。今ゲートが開きました!』
ゲートが開いた瞬間、俺は一気に駆け出す。
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