第11話 シランケド?

「嘘でしょう。どうして地下1階にG III級のモンスターが居るのよ!」


 マキバゴブリンを倒した後に出現したモンスターを見て、エリカお嬢様が声を上げる。


 全長10mくらいの四足歩行の大型のモンスターで、長い首の先にある頭には先端が尖っている鹿の角のようなものが2本あり、胴体の先には無数の毛に覆われた尻尾が3本あった。


『ブルル、ブルル』


 モンスターは鼻息を荒くして鼻をヒクヒクとさせながらこちらに視線を向ける。


「オルフェ、逃げますわよ!」


 逃亡するように声を掛けると、エリカお嬢様は一目散にこの場から離れて行く。


 出遅れながらも俺は彼女を追いかけ、追い付くとエリカお嬢様に問い掛ける。


「なぁ、あのモンスターって何なんだよ? どうして急に逃げ出さなければならない?」


「シランケド! シランケド強いのよ!」


 何! 知らんけど・・・・・だと! まさか、エリカお嬢様が知らないモンスターなのか! でも強いと言っていた。彼女は肌感覚であのモンスターの強さを見抜いたと言うのか。


「ワタクシたち2人では、あのモンスターに勝つことは難しいです。あのモンスターと出会でくわしてしまった以上、逃げの一手。追い付かれる前にこの階にあるゴール板を駆け抜けますわよ」


 全速疾走をする中、後方の様子を伺う。逃げる俺たちを見て獲物と判断したのか、名前が分からないモンスターは俺たちを追いかけてきた。


「エリカお嬢様、あのモンスター、俺たちを追いかけてくるぞ」


「流石に見逃してはくれないようですね。でも追い付かれてしまえば、ワタクシたちは終わりですよ。無様でも、とにかく逃げ粘る必要があります。シランケドを発見してしまった以上、ギルドに報告しなければ」


 確かに、知らないモンスターの出現の報告は必要だよな。もしかしたら未確認のモンスターなのかもしれない。


 もう一度後方を確認すると、やつの姿は5メートル差まで縮まっていた。


 早い! なんて速度だ。馬なみに早いぞ!


 このままでは追い付かれる。俺はダメかもしれないが、せめてエリカお嬢様が逃げられる時間を稼ぐくらいはしなければ。


「ディープインパクト!」


 右腕に魔法を使い、1メートル先の地面に向けて放つ。


 深い衝撃を受けた地面は砕け、石や砂が舞って周囲に散らばる。


 これで少しでも時間が稼げれば良いのだが。


 少しでも目眩しになれば良いと思ったが、そんな甘い考えはこのモンスターには通用しなかった。


 砂塵の中から影が現れたかと思うと、目の前に先端の尖った2本の角が砂塵を突き破る。


 嘘だろう! 怯みもしないのか!


「メタルスピード!」


 直ぐに筋肉を強化する魔法を発動し、腕をクロスして防御体制に入るも、1秒も立たずにモンスターの頭部が接触したようで、腕に激しい衝撃を受けると反動で後方に吹き飛ばされる。


「オルフェ!」


 エリカお嬢様の声が耳に入る中、空中で一回転をして地面に着地をする。


「大丈夫だ。メタルスピードのお陰で軽傷で済んでいる。でも、あの速度から逃げることは困難なようだぞ」


「それでも、逃げるしかありません。戦いとは勝つことだけが勝利とは言えませんので」


 モンスターの追い込みに必死になって粘っていると、開けた場所に出た。周囲には木々がなく、辺りが良く見渡せる。


「広い場所に出ましたわね。ここなら、あの魔法を使える。来なさい! エリカエクスプレス!」


 エリカお嬢様が魔法を発動すると、目の前の空間が歪み、ミニサイズの汽車が出現した。


「これに乗れば、逃げ切る可能性があります。直ぐに乗ってください」


「分かった」


 彼女の指示に従い、機関室に入り込む。ミニサイズだから中は狭いものの、かろうじて2人が入ることはできた。


 俺たちが中に入った直後、エリカエクスプレスは全速力で加速し、モンスターとの距離を引き離す。


「何とか振り切れそうだな。このままあいつが見失ってくれれば、隠れながらでもゴール板を探すことができる」


「そうだと良いのですけどね。でも、油断はできませんわ。あのモンスターは……きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 安心し切っていたところにエリカお嬢様が不穏なことを口にした瞬間、まるで直ぐにフラグが回収されたかのように汽車内に激しい振動が起きる。


 その後視界が斜めになりつつあることで、エリカエクスプレスが横転しそうになっているを察知した俺は、エリカお嬢様を抱きしめて衝撃に備えた。


 視界に入る光景が90度変わったことで、完全に横転したことを知ると、彼女に問い掛ける。


「エリカお嬢様、怪我はないか?」


「ええ、問題ありませんわ。でも、直ぐにここから出なければ」


 機関室から出て横転したエリカエクスプレスに視線を向ける。車輪の部分には植物の蔓が巻きついていた。これが原因でバランスを崩して倒れてしまったのだろう。


 後方を見ると、俺たちを追いかけていたモンスターが接近しつつあった。


 まだあいつは諦めていないようだな。くそう。どうすればいい。


「オルフェ、見てください!」


 エリカお嬢様が指差した方に顔を向けると、ゲートらしきものがあることを認識する。


「あれがゴール板です。あの中に入れば、自動的にギルドに転送されます」


 追い詰められてはいたが、追い付かれる前に走り抜ければ無事に脱出することができそうだ。


 俺とエリカお嬢様は一目散にゲートに向かって走る。


『ピィー!』


 ゴール板に突入する寸前でモンスターの鳴き声が聞こえたような気がしたが、そんなことは気にしてはいられない。一気にゴール板を駆け抜け、迷宮ダンジョンから脱出することに成功した。


 ゲートの中に入った瞬間、視界が一瞬だけ真っ白になるも、気が付くと俺はギルドの中に居た。


「帰って来れたのか?」


「ええ、どうにか無事に帰って来られました」


 俺たちは安堵し、その場にしゃがみ込む。全速力で走ったからか、心臓の鼓動が早鐘を打っている音が聞こえてきた。


「おお、お前たち帰って来たか! もう夕方だから心配していたんだぞ! 依頼は達成できたのか?」


 俺たちが帰ってきたことを認識したようで、ギルドマスターのスティンガーが声をかけてくる。


 興奮状態にある体を立ち上がらせて、俺は彼のところに向かった。


「知らんけど! 知らんけど! 大型のモンスターが現れた! 知らんけど強かった!」


「お、落ち着け! 意味が伝わらない。いったい何があった? 依頼は達成したのか?」


「オルフェ、気持ちはわかりますが、落ち着いてください。依頼は完了しました。オルフェ、例の物を」


「あ、ああ」


 懐からマキバゴブリンの討伐レイを10枚取り出すとカウンターの上に置く。


「確かに依頼クリアの証だな。手続きをするから少し待ってくれ」


「ギルドマスター、手続きは後で構いません。それよりもお伝えすべき大切なお話しがあります」


「なんだ? そんなに真剣な顔をして、迷宮ダンジョン内で何かあったのか?」


「ええ、迷宮ダンジョンの地下1階にて、G III級のモンスター、シランケドと接触しました」


「な! 何だってえええええええぇぇぇぇぇぇ!」


 エリカお嬢様の言葉を聞いたギルドマスターは声を上げて驚きの表情を見せる。


「これがその証拠となる物です」


 カウンターの上に、彼女が拾った鱗を置く。


「確かにシランケドの鱗だな。まさか、地下1階程度の場所にG III級のモンスターが現れるなんて。嫌な予感がするな。分かった。明日調査隊を編成し、現場に向かわせる。安全性の確保ができるまで、しばらくは迷宮ダンジョンに行くことを禁止にするとしよう」


「え? 2人の話しからして、もしかしてシランケドってモンスターの名前なの?」


「当たり前ではないですか? このワタクシが知らないモンスターなんて殆どいませんよ」


 どうやら俺は『シランケド』を『知らんけど』と勘違いをしていたようだ。






 シランケドが発見された日から1日が経過した。俺たちはスティンガーから学園生活を過ごすように言われ、生徒として1日を過ごす。


 昨日、午後の授業をサボってしまったが、エリカお嬢様のお付きのメイドのカレンさんが上手く誤魔化してくれたらしく、特別に許されることになった。


 さて、今日はどんな風に過ごそうかな」


「見つけたぞ! 今日こそ俺と決闘をしやがれ!」


 いや、お前と決闘をして過ごす予定はないのだけど。


 出会い頭にバトゥとエンカウントしてしまい、頭を抱えたい気分になった。






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