第5話 ロビンの恋(5)
「馬鹿なこと言うな!
昨日だって亜美とデートした。
そして愛を確かめ合った」
「分かった。
では決定的なものを見せるために
次の部屋に行こう」
黒ウサギは僕を隣の部屋に案内した。
その部屋の壁も天井も
やはり0と1が点滅しながら
縦方向に流れていた。
黒うさぎが指をパチンと鳴らすと
壁中の数字の列が消えて
横に流れる0と1の点滅が現れた。
「『現実世界において無機物とされているもの』
のプログラムは縦に流れ
『有機物とされているもの』
のは横に流れる。
これは何のプログラムだと思うね?」
「こんな数字の列を見たって
何だか分かるわけがないだろ」
「これは君が昨日、
愛を確かめ合った
亜美さんとやらのプログラムだ。
君たちの恋などは
ただのバグに過ぎないから
今こうしてデバグしている」
「なんてことだ!
馬鹿なことをするな!
ふざけるな!」
僕は黒ウサギに殴りかかった。
が、うまくかわされてしまった。
バランスを失って
前のめりに倒れた僕が
黒ウサギを振り返ると
彼は気の毒そうに僕を見下ろして言った。
「君の驚きも怒りも当然のことだと思う。
私も、こんな可哀そうなことをしたくない」
「僕はあなたの言うことなんか信用しない。
ハッキリと言う。
僕も亜美も人間だし
僕たちの愛はバグなどではない!」
「クラウド・キーパーの法律に違反した以上
亜美さんのバグを取り除いたように
君の中のバグも取り除かなければならない」
黒ウサギは言い終えると
突然
ゆらゆらと揺れる煙の塊のように
姿を消した。
そして、あたりが白く発光した。
僕は、腕も脚も0と1の数字の列に変わり
宙に拡散していくのをただ見つめていた」。
― 以上が、或るCKの記録である。
バグの早期除去ができず
自我を持ち恋愛感情まで持ってしまったCK
の不幸を肝に銘じ
仮想世界省監視局は
バグの早期発見と早期除去をめざして
より一層の努力をしなければならない。
つづく
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