5-1

 雨粒の弾ける音が、鬱陶しく耳をつんざく。

 ここ三日ほど、雨が続いている。工房を照らすのは、たまの雷と卓上ライトのみである。カーテンのない工房の窓から外の寒さが伝わって、足まで冷えてきた。

 樹に半ばやけくその電話をしてから、一週間が経った。

 作業台に並ぶのは、とうに固まった百を超える指の数々である。その全ては人差し指で、作った朗義ですら把握できないほどの僅かな差が形状に現れている。

 作れない。辰良の許しが得られるものとは何か、分からずに時間だけが過ぎてしまった。

 無駄にしているのは時間だけではない。もはや自負や信念も消えかかって、朗義の脳は今後の身の振り方を模索することでしか回らない。

 崩れたのは自分の手なのではないかと思う。

 つと、立ち並んだ指が次々と倒れた。朗義はそれをぼうっと眺めて、何故だろうと考えることも出来ぬままであった。転がる指が動きを止めた時にようやく、それが地震によるものだと理解した。地面が揺れたから、店が揺れて、工房も揺れて、耐えられなかった指が倒れたのだ。一階のドールたちは大丈夫だろうか。座らせているものは、問題ないだろうなと思った。

「師匠、地震大丈夫っすか。一階は全員無事なのを確認済みっす」

「そうか」

 久しぶりの会話で、咳き込んでしまった。喉が渇き切って、声すら上手く出せない。粘土の粉がいくら舞おうが、いつしか咳も出なくなっていた。

 唾液を飲み込んで、言い直す。「そうか。よかった」

「……師匠、一回寝るべきっす。このまま続けたっていいことないっすよ」

 この一週間、ほぼ寝ていないことは関係ない。すり減った神経はそのまま心を蝕んで、朗義をポジティブにさせることはない。同じようで少し違う人差し指は、それこそゲームの神経衰弱を想起させる。これを全く無意味な思考だと、思うことは出来た。

「……うん」

「一時間だけ、とかなしっすよ。起きるまで泥のように寝るっす。ほら」

 見かねた丹尾が、朗義に肩を貸す。朗義の高い背は腰と膝が折れ曲がることにより、丹尾の低い身長と見事に合致した。ほぼ全体重をかけられた丹尾は、全身の力を振り絞って一歩、また一歩と朗義をすぐそこのベッドまで運んでいく。

「重いっす」

「ごめん」

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