3-14
「へえ、それは凄い」
「でも本人は家族以外にそういう扱いされるのが嫌みたいで。特に話を聞いてくれるクラスメイトが少ないんです。だから対等な目線で、純粋に好きなもので話が出来るっていうのは、ひーちゃんにとって凄く楽しいことなんですよ」
賢いが故の宿命、というものであろうか。
「そうは言っても、部屋に戻っちゃいましたよ」
「照れ隠しですよ、きっと。全く、城戸さんは人たらしですねえ」
「人たらしって」
事実、朗義の元には不思議と人が集まる。誰にでも分け隔てなく接する朗義の立ち振る舞いがそうさせていることを、本人は知らない。これまでを振り返れば、確かに何不自由なく友好関係を築いてこれた人生だ。そういう意味では、人たらしというのも少し納得が出来た。
「じゃあ樹さんも、その内の一人ってことですか」
朗義はこの時、何も深くは考えていなかった。
樹はしばし沈黙して、
「ひええっ」
よく分からない悲鳴を上げられた。
「そ、それは……ご想像にお任せします……」
朗義からしてみれば、よい関係の店主と顧客という意味の言葉でしかなかったのだが、樹はこれを朗義からの積極的なアプローチ以外の何でもない。火照る顔を冷まそうと手を仰ぐが、仮の指は空を切るのみであった。
朗義はといえば、今日は日差しも強く気温も高いからな、などと全く的を射ていないことを、樹を眺めながら考えていた。
何はともあれ、今必要なことは全て確認出来た。
次この家に来るまでに、ウラギンシジミの幼虫でも作っておこう。よい土産になるはずだ。
呑気なその背中をじっと見つめる真智の視線には、気がつかなかった。
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