第24話 「深夜の光」
黒崎が去った後も、
店の空気には彼の影が残っていた。
ハサミの刃を拭きながら、
龍は何度も鏡を見た。
心臓の鼓動は、まだどこか乱れている。
(……黒崎。まだあの件を追ってる)
(カヲル……お前、今どこにいるんだ)
夜の帳がゆっくりと降りてきた。
店の照明を落とし、シャッターを閉める。
冷蔵庫のペットボトルを開け、のどを潤すと、
静かな「33」に、
冷たい蛍光灯の光が落ちた。
PCの電源を入れる。
白い画面が、
現実と虚構の境をぼんやりと照らす。
何気なく開いたニュースサイトで、
ふと目が止まる。
『速報。
ノクス・コレクティブ人間研究所の
最高責任者、レオン・ハーグリーヴズ博士が
本日未明、自宅で死亡しているのが発見されま した。
死因は不明。
警察は他殺の可能性も視野に入れて――』
龍は、息を飲んだ。
「……ノクス・コレクティブ……?」
その名前を、どこかで聞いたことがあった。
夜中のポッドキャスト、都市伝説掲示板。
「人間意識の再構築」
「量子共鳴を利用した人格転写」
――
そんな言葉とともに、囁かれていた存在。
だが、それはあくまでネットの闇の“噂”だったはず。
(……実在してたのか?)
龍は無意識に、指を動かした。
検索欄に打ち込む。
「ノクス・コレクティブ 人間研究所」
いくつものリンクが現れる。
公式ページは、すでにアクセス不能。
代わりに匿名掲示板や
暗号化フォーラムのリンクが並んでいた。
「“Project MORPHEUS
(モルフェウス計画)”……?」
英語の記事がちらつく。
翻訳ツールを走らせると、
“人間の夢の中での情報同期実験”
という言葉が浮かぶ。
龍の背筋に冷たいものが走った。
(夢の中で……情報を同期?)
(まさか……集合意識の書き換え……?)
彼は息を整え、さらに検索を深める。
“被験者”“意識マッピング”“記憶転写”
――
そして、“日本支部”。
「……日本にも、あるのか?」
クリックした瞬間、
モニターが一瞬だけ、ノイズを走らせた。
ジッ……という電子音。
画面に、一瞬だけ現れた文字列。
【アクセスが制限されました】
【あなたの通信は監視されています】
「……は?」
龍の喉がひゅっと鳴る。
マウスを離し、画面を見つめた。
だが、すぐにページは
通常のニュースに戻った。
何もなかったかのように。
(今の……何だった?
…また俺やっちまったか…?)
背中に冷たい汗が流れる。
店の奥の鏡に、
自分の姿がぼんやりと映った。
光の奥で、もう一人の“自分”が
笑っているように見えた。
(この世界は、
誰かの“物語”で
書き換えられているのかもしれない)
―
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