第20話 (最終話)【真の聖女】悪女の夫への愛が、竜騎士の呪いを浄化する!

祭壇に走った巨大な亀裂を挟んで、ゼフィールと、狂気に満ちたアルベールが対峙する。大枢機卿ヴァレリウスは、儀式の失敗に怒り、配下の黒衣の魔導士たちにゼフィールへの総攻撃を命じた。


「ゼフィール!巫女の力を奪うのではない、あなたの愛を、彼女の心にぶつけてください!」


私の叫びは、戦場の喧騒を突き破り、ゼフィールの心に届いた。


ゼフィールは、黒衣の魔導士たちの魔法攻撃を竜の力で吹き飛ばしながら、私に視線を送る。


「愛とは…… セシリア、どういうことだ!」


「巫女の力は、愛と献身にのみ反応します!あなたは、あなたの愛で彼女の恐怖を鎮め、呪いを浄化する協力を求めるのです!」


私はルナの縄を解き、彼女をゼフィールの方へ押し出した。


「ルナさん、あなたの力は、恐怖を鎮めるためのものです!アルベール殿下の強欲な心ではなく、ゼフィール団長の孤独な心に触れてください!」


ルナは私とゼフィールのただならぬ絆を感じ取り、震えながらもゼフィールに近づいた。


その瞬間、ゼフィールの中で、呪いの力が暴走を始めた。満月の夜、聖域という土地柄が重なり、彼の竜の血が制御不能になり、鱗が全身を覆い始める。


「くっ……来るな、ルナ!俺は、俺自身を抑えられない!」


ゼフィールの声は、もはや獣の咆哮だった。



ルナは怯えたが、セシリアが彼女に囁いた言葉を思い出した。


「ゼフィール団長は、最も優しい心を持っています!あなたは、彼を助けられる!」


ルナは意を決し、暴走するゼフィールに手を伸ばした。彼女の掌から、柔らかく、温かい光が発せられ、ゼフィールの体全体を包み込んだ。


「あぁ……この光……」


ゼフィールは苦痛に顔を歪ませながらも、その光の中に、安らぎを見出した。ルナの聖女の血は、彼の中の狂気を鎮めていく。



だが、その時、アルベールが狂ったように叫んだ。


「巫女を渡すな!聖女は私のものだ!」


アルベールは祭壇の破片を拾い上げ、ルナの背中に向かって飛びかかった。


「そこまでよ、元婚約者!」


私は、アルベールの背中に向かって駆け出した。悪役令嬢の知識は、体術にまでは及ばない。しかし、私の手には、ゼフィールから託された"竜の血の守りの紋章"がある。


「あなたは、私とゼフィールの愛の、邪魔よ!」


私はペンダントをアルベールに突きつけた。


その瞬間、ペンダントから、ゼフィールの純粋な愛と力が具現化した黒い光が放たれた。それは、アルベールの体に触れると、強欲と憎悪に満ちた彼の心を焼き、苦痛を与えた。


「ぐわぁぁぁぁ!」


アルベールは絶叫し、その場に崩れ落ちた。彼の心に残っていた、私への執着とゼフィールへの嫉妬の炎は、私たちの真の愛の力によって完全に打ち砕かれたのだ。



アルベールが倒れると同時に、大枢機卿ヴァレリウスは、自分の敗北を悟り、配下の魔導士と共に逃亡を図った。


しかし、ゼフィールは、呪いが鎮まり、真の力を取り戻していた。


「逃がさない」


彼の背中から、黒い竜の翼が広がり、逃亡を阻止した。

黒い翼は、呪いではなく、浄化された純粋な力の象徴だった。



ゼフィールは、ルナに感謝の意を伝え、私を抱きしめた。


「セシリア、お前が、俺の真の聖女だ」


彼はそう言って、私に深く、情熱的なキスを落とした。



__________


事件の終結後、大枢機卿ヴァレリウスの陰謀が全て暴かれ、彼は宮廷から追放され、その権力は失墜した。


ルナは、ゼフィール夫妻によって手厚く保護され、巫女の血筋として、人々を静かに癒やす道を選んだ。


そして、セシリアとゼフィールの愛は、揺るぎないものとなった。


ゼフィールは、呪いという枷が外れたことで、その力を完全に制御できるようになり、国民からは"冷血なラスボス"ではなく、"王国最強の守護者"へと認識が変わった。


彼は、公式の場でも、以前のように冷酷な仮面をつけ続ける。しかし、その仮面の下では、彼だけの愛しい妻を見つめている。


私、セシリア・クロムウェルは、悪役令嬢を名乗ったまま、この世界で最も愛され、最も恐れられる最強の夫の隣に立つことになった。



「ゼフィール、今日の夜会は退屈ですわ。早く城に戻って、わたくしの献身の報酬をいただきますわよ」


私が悪女らしく高慢に囁くと、ゼフィールは仮面の下で、私にしかわからないほど、口元を緩めた。


「ああ、セシリア。お前の望み通りだ。俺の全てをお前に捧げよう。一生愛すと誓ったのだからな」



悪役令嬢が手に入れたのは、悲劇的な破滅ではなく、ラスボスによる、永遠の溺愛だった。


(完)

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悪役令嬢を名乗った私ですが、ラスボス竜騎士団長に「一生愛す」と求婚されました みー @itomyk

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