第2話【死角からの左ストレート】



 次の日、俺は無事に第四志望の高校の入学式を終えた。

昨日の入学式後、教室で再度名前を確認された所でゲラウェイとなったワケだ。

『何を考えているんだお前は!』と言う先生の愚問に

『それを知ったら、もう後戻り出来ませんよ?』と返し摘み出された。


そんなこんなで教室での自己紹介を迎えた。クラスは1年A組と来たもんだ。

もはやA太郎である俺の為に用意された教室、と言って過言ではない。


『山口A太郎です、趣味は鑑賞、特に″人間の″な』

俺の自己紹介にクラスが騒ついた。早々に心を掴んだ様だ。


俺に次いで後ろの男子生徒が立ち上がる。

『俺は山田作造やまださくぞう、ニーチェを救おうと思っている、以上。』

なにぃ!?今時さくぞうだと!いや、それ以前にニーチェが何だって?トンデモナイ奴が居るぞこのクラス。しかしながら周りの生徒はビックリする程に反応が薄い、それがむしろ俺には神々しくさえ感じた瞬間だった。


『お前がニーチェを救うだと?』

自己紹介を終えた休憩時間に、速攻で絡みにいった。

俺は出る杭には齧り付くタイプなのだ。


『それが何だ?山口……だったか?』

作造は全く意に返さぬ様子で応じる。ここで作造がA太郎という俺の名に触れないのは、″栄太郎″だと思っているからか?などと思っていたのが不味かった。

『そんな緊張すんなよ山口』

『しつりゅす!』

″してない″を噛んでしまった。

先手を取ったのは確実に作造だ。完全にヤツのペースに乗っている。


『ニーチェ知ってんのか?お前』作造が問う

『知らん』即答してやった。


俺がニーチェと聞いて1番最初に思い描いたのはフルーチェというオヤツだ。

あれは美味い。


その時だった。

『喧嘩をするなぁ!!』

突然、右頬に左ストレートを死角から喰らい、俺は思わず吹っ飛んだ。


ガッシャン!


机と椅子を幾つか跳ねながら倒れる俺。

そんな俺を見下ろしていたのは、自己紹介で

『斎藤ケイタ、趣味でボクシング漫画を読んでいる』と言ったヤツだ。


そして斉藤は言い放った。

『俺は右利きだ』

だ、だから何だ?なぜに俺を殴ったのかの説明になっていない!


こうして何事もなく俺の学園生活は始まったのだった。

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