第31話

 ギルド長のテストに合格し、俺は1日の準備期間を挟んで、ヴェノムスパイダーの討伐を開始した。

 電動オフロードバイクも農薬散布用ドローンも、再整備したうえでフル充電になっている。

「シンジ、今日の討伐ではお前が指示を出してくれ。危ない時は必ずフォローするから、お前の思い通りに動いてくれて構わない」

 討伐が始まる前、シーラは俺にそう言ってくれた。

 シーラもリンゼも腕利きの上級ハンターである。

 俺が多少無茶なことをしてミスしたとしても、リカバリーできるだけの自信を持っているのだ。


 今日の討伐では、訓練時のようにヴェノムスパイダーと偶然遭遇するのを待っている訳にはいかない。

 俺たちは、ヴェノムスパイダーを探し出して狩るのだ。

 狩場に設定したのは、外壁の北門を出て北西側、外壁から5キロ以内の範囲である。

 神殿に設置した長距離無線LANの通信可能圏内である。


「リリ、小型ドローンを飛ばしてヴェノムスパイダーを探すぞ」

 俺の掌の上から小型ドローンが飛び立っていった。

 大型の農薬散布用ドローンを飛ばして、ヴェノムスパイダーに警戒されてはならない。

「マスター、ヴェノムスパイダーを発見しました。ここから北北西に3キロの地点です」

 小型ドローンが飛び立って間もなく、早くも草原に出てきたヴェノムスパイダーを発見した。

 個体数の多い魔獣だけに、上空から俯瞰して探せば見つかるものなのだ。


「シーラ、俺が先頭を走る。俺の後ろを付いて来てくれ」

「了解だ」

 俺は、時速30キロの低速で移動を開始した。

 俺のスマートグラスには、リリウムが選定した最適な接近経路が示されている。

 上空から確認した地形を利用し、ヴェノムスパイダーに隠れながら接近していくのだ。

 ヴェノムスパイダーに気付かれる前に、出来るだけ攻撃位置に近づいておきたい。


「マスター、敵に発見されました!」

 敵までの距離はまだ600メートルある。

 計画外の遠距離で、早くも敵に発見されてしまった。

 鋭敏な感覚器官を持つヴェノムスパイダーは、草の擦れる音だけで俺たちを発見したのである。

「一気に行くぞ!」

 俺は電動オフロードバイクを急加速させた。

 電動オフロードバイクを走らせたまま、リアキャリアから大型ドローンが発進する。

 リリウムはドローンを敵上空で旋回させ、ヴェノムスパイダーを農薬の檻に閉じ込めていく。

 電動オフロードバイクの急加速に、ドードーを駆るシーラたちは追いつけない。


 敵から50メートルの攻撃位置に付いた時、シーラたちは少し遅れていた。

 ヴェノムスパイダーは農薬の檻に閉じ込められているが、かなり大きなヴェノムスパイダーであり神経毒が十分に回っていないようだ。

 シーラたちを待っている暇はない。

 俺は猟銃を構えて照準を合わせるとスラッグ弾を発砲した。

 外れた!

 1弾目は、ヴェノムスパイダーの右上に逸れた。


「マスター、心拍数が上がっています。落ち着いて下さい」

 俺のバイタルを常時モニタリングしているリリウムが、緊張状態の俺を落ち着かせる。

 猟銃は上下二連式である。スラッグ弾はもう一発装填されている。

 俺は、大きく深呼吸をすると、息を止めて引き金を引いた。


 命中! いや、外殻に弾かれた?

 俺に向かって前傾姿勢を取ったヴェノムスパイダーは、外殻が避弾経始となってスラッグ弾を弾いたのだ。

 ヴェノムスパイダーが対策を考えた?

 俺は討伐に失敗したのか?


「シンジ、私が止めを刺す!」

 追いついて来たシーラが言った。

 手負いの魔獣には止めを刺さなければならないのだ。

「シーラ待って! シンジならやれる!」

 そのミュウの言葉で、血が上っていた頭が冷静になった。


 俺は跨ったままだったバイクから降り、猟銃の銃床を折って排莢すると、スラッグ弾を1発だけ再装填した。

 膝撃ちの姿勢となり射撃姿勢を安定させる。

「リリ、狙うぞ!」

「バイタルは安定しています。いつでもどうぞ」

 俺は照準を合わせると、無心で引き金を引いた。

 俺の放ったスラッグ弾はヴェノムスパイダーの単眼のひとつを貫通し、頭胸部内をズタズタに引き裂いてヴェノムスパイダーを絶命させた。

 俺はヴェノムスパイダー討伐を独力で成し遂げたのだ。


「姉さん、これヴェノムスパイダーじゃないよ。ヴェノムスパイダー・キングだ」

 解体を引き受けてくれたリンゼが驚いた声を出した。

「ほんとだ。まだ成獣になっていないから模様が薄くて分からなかったけど、これは間違いなくヴェノムスパイダー・キングだね。どおりで外殻が硬いはずだ」

 シーラも驚いている。

 シーラの話によると、ヴェノムスパイダー・キングはヴェノムスパイダーが特異進化した個体で、討伐難易度としては中級の魔獣に該当するのだそうだ。

 ヴェノムスパイダー・キングは成獣になると、ヴェノムスパイダーの倍以上の大きさになる。

 ヴェノムスパイダー・キングを討伐する場合は、魔石汚染が起こることを覚悟して柔らかい腹部を狙うものらしい。

「シンジさん、ヴェノムスパイダー・キングの糸は滅多に手に入らない高級品なんだ。この糸腺はかなりの高値で売れるよ!」

 苦労した甲斐あって、最後に嬉しいお土産が出来た。

 だがしかし、リンゼ君、この糸はすべて神殿に奉納されることになっているのだ、、、

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