第2話
確かな時間は分からないが、太陽の傾き加減とこの外気温からすると、おそらく午後の6時は回ってはいるであろう自宅への帰り道を、不安定という表現ではまるで足らない心境でヨボヨボと歩いていた。
『人は見た目で判断してはいけない』
オレは、この不確かなことを断定している物言いがとてつもなく嫌いだ。
けれど、この手の言葉は不特定多数の人間に対して言っているのではなく、実際に体験したとき、自分が自分に対してかける言葉だという、人生の諸先輩方の優しさだったんだなとしみじみと噛み締めながら、「完璧、反則だろ」と、ため息混じりに呟いた。
「ただいま」
現自宅兼バイト先でもある中華料理店、『
「おう、おかえり」
「おかえりなさい」
この店の店主であり、高校生というこんな立場のオレを受け入れてくれた
「はじめまして」
いつもの光景も束の間、その声が店内に響いた瞬間、コンビネーション抜群で手際よく作業していた二人の手がまったく同時に一寸の狂いもなくピタリと止まった。
「これからこいつと付き合わせてもらうことにした、
カラーン!
ガシャーン!
今度は、奥から先程までの静寂をやぶり反射的に耳を塞いでしまうほどの物音がする。
「ということになりまして」
ポカーンという効果音。鳩が豆鉄砲くらった顔。もしくは、アッケラカンに取られる。という〝意味〟が無いっぽいニュアンス的に解釈出来る言葉、どれもが当てはまっている状態が体感にして十分くらい、実際は十秒続いた。
「先生、というのはどちらの大人でしょう?」
現況を全く把握できていない、いや、見ようともしない彼女が簡潔かつ問題発言の次に発した質問を聞いて、大人としての対応をするため我に返った奥さんの
「はぁ、とうとう警察沙汰か……」
それを聞いて夫である
「け、警察沙汰って!? どっ、どうしようクッシー!」
慌てふためいてという状況を見ることができるとは、まさにそれだった。
「だから、そのどこぞの女優みたいな呼び方はやめろって言ってるだろうが!」
持っていた中華包丁の柄からヒョイッと刃のほうに持ち替え、雷禅さんの頭を小突く。
モノは言いようだ。オレの脳内では未知の恐竜が思い浮かんでいる。
「年上なら幾らでも理解してやれるが、年下、それも、小学生に手を出すとは、全く、理解不能だね」
それもそれでどうかと思いつつ、呆れ顔で目も合わさずに言い捨てられた。
✤
すべてのことが最初からだった。
私という存在に生きている意味があるのか?
私以外が生きている意味があるのか?
人間。いわゆる『人(ひと)』である意味があるのか?
そもそも『意味』に意味はなく、自分という事柄こそが存在している意味であり、概念であり、常識であり、当然であり、必然であり、愛であり、情であり、人間であり、人だ。
「そうだ『正義の味方』になろう」
結論であった。
生きていくための、生きているための。
『運命』である。
時間にして、オレがゴミ屋敷に着いたころ。
「考えに体が耐えうる状態だ」
世界のある場所で、両膝に両手を置き、立ち上がる人間がいた。
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