第9話:決意の旅立ちと、密かな守り

 ハルカは自転車に跨り、夜道を急いでいた。背中にリュック。中にはコヨミ様から渡された「破魔の矢」とお札が入っている。


「満月が、昇り始めている……」


 空を見上げると、巨大な月が、潮見祠のある漁港の方向を照らしていた。


(サクラ、待ってて。必ず助けるから!)


 自転車を漕ぐハルカの心には、恐怖よりも使命感が勝っていた。


 漁港は街灯も少なく、人通りもない。ハルカは自転車を捨て、薄暗い道を走った。潮の匂いが強くなると共に、路地の奥から感じた、あの「清浄な塩の匂い」が鼻につく。


 廃れた倉庫の影から、ぼろぼろの祠が見えた。その前には、三日月と波の紋様を身につけた、数人の人間が集まっている。彼らが、依頼主だ。


ハルカが身を隠していると、彼女の背後の闇から、微かな声が聞こえた。


『ハルカ。怖ければ、私の名を呼べ。すぐに駆けつけ、全てを焼き払ってやろう』


 それは、コヨミの魂の声だった。姿は見えないが、彼は結界を張りながらも、ハルカの近くで彼女を守ってくれているのだ。


 ハルカは胸に手を当て、そっと微笑んだ。


「大丈夫です、コヨミ様。……わたくしは、一人ではありませんから」


 ハルカは破魔の矢を強く握りしめ、祠へ向かって走り出した。

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