とうきょうオーロラ探検隊 ― 光の約束 ―
夢ノ命マキヤ
プロローグ ―ひかりの記憶―
東京の夜は、明るすぎる。
どこを歩いても光に満ちているのに、心の奥だけがずっと暗い。便利で、快適で、何でも手に入る――はずなのに、手触りがない。
そんなことを考えながら、僕は、会社帰りにふらりと入った古道具屋の棚を眺めていた。
古いカメラ。
どこで拾ったのか分からない木箱。
時代を越えて残された、名もなき品々。
そして、その奥――
ふと、引き出しの隙間で光が反射した。
手を伸ばして取り出してみると、
一本の、未現像のフィルム。
それは妙に温かかった。
まるで、誰かの体温がまだ残っているみたいに。
店主に声をかけると、
老人は怪訝そうに眉をひそめた。
「それか……ずっと処分し損ねてたやつだよ。
誰が預けたのか分からねえ。十年以上、箱の隅にあった。
カメラも一緒じゃなかった。フィルムだけだ」
「現像していいですか?」と尋ねると、
老人は少し考えてから言った。
「現像したら、戻ってこれなくなるもんって、あるぞ」
冗談のつもりだったのかもしれない。
でも僕には、その言葉が忠告のように聞こえた。
理由は分からない。
ただ、このフィルムを手放したくない――そう感じた。
二日後。
僕はフィルムを現像所に持ち込んだ。
「仕上がりは一週間後」と言われて帰る途中、胸の鼓動がやけに速い。
一体、何を期待してるんだろう。
でも、その夜、僕は気づいてしまった。
胸の奥でずっと響いていた呼び声みたいなものは――
このフィルムを見つけた瞬間に、少しだけ静かになった。
(探していた何かに、やっと触れた気がした。)
数日後。
仕上がりを受け取った袋の中。
そこに写っていたのは――
オーロラ。
東京の空に。
こんなもの、あり得ない。
ページを震える手でめくっていく――
少年たちの後ろ姿。
笑っている小さな影。
光の柱。
黒い夜空に走る脈動。
そして――
その中心に立つ、ひとりの老婆。
まるで光そのものを引き寄せているみたいに、
頭上に射し込む縦のひかり。
(これは……ただの写真じゃない。)
世界が少し揺れて見えた。
この写真の続きを、知りたい。
知ったら――
僕は何かを取り戻せるような気がした。
僕はこの瞬間から、
まだ見ぬ誰かの物語の続きを、生き直すことになる。
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