2.Sevenkeys
目を覚ましたわたしの視界に写るのは、さっきと同じ天井。
「……よかった、夢じゃなくて」
夢だった方が良いに決まっているのに、わたしの口から出たのは安堵の言葉だった。まだ寝ぼけているのかもしれない。
もう一度寝てからどのくらい時間が経ったかわからないけど、体の感じからそんなに経っていないと思う。長く寝てたらもう少し頭がスッキリしてるはず。
でも良いリフレッシュにはなった。部屋には誰もいないし、今のうちにセブキーの物語について整理しておこう。
今が物語の中のどの地点なのか……わたしが生きてるってことは、原作が始まる前かな。
セブキーは主人公――黄地洋太が不思議な鍵を拾う所から物語が始まる。その鍵を話したこともないクラスメイト――山田颯介に見られる。鍵を見た颯介はどこで見つけたのか、と洋太に詰め寄る。
冷静沈着なはずの颯介の、いつもとは違う姿に困惑する洋太。洋太はその鍵についての説明を颯介に求めるが、颯介は話そうとしない。険悪な空気が流れる中、二人を襲う刺客が現れる。困惑する洋太を守って戦う颯介だったが、多勢に無勢で徐々に押されていってしまう。
自分が足手まといだと気づいた洋太が無力さを呪い、力が欲しいと願った瞬間に鍵が光を放ち、洋太の手には銃が出現する。使ったことがないと叫ぶが、洋太には銃の素質があり、初心者とは思えない実力で敵を圧倒する。
そして巻き込まれてしまったからには、事情を知った方がいいと判断した颯介から錠と鍵にまつわる話を聞く。
颯介は鍵と錠を守る家系――錠乃家に仕える一族だった。そして守るべき錠乃家は数日前に何者かによって、滅んでしまった。
鍵は七色、つまり七つありその鍵に宿る色をひとつの鍵に集め、錠に差し込めば何かが起こる。その何かについては錠乃家しか正体を知らず、錠乃家の人間が居なくなってしまったせいで正体が分からなくなってしまった。
錠には秘められた力があり願いが叶うと信じ、そのために戦う者。世界を滅ぼすほどの力を持つ怪物が封印されていると聞き、世界を破壊しようとする者。鍵は力を持つ者を選ぶので、強者との戦いを楽しみたい者。
いろんな思惑を持つ者達の、鍵を巡る戦いに洋太と颯介は巻き込まれていくという、バトル漫画だ。
セブキーにおける雨宮桜也は、洋太のライバルキャラだ。表の顔は生徒会長、しかし裏の顔は街の不良たちのボス。いわゆる番長だ。自分の持つ情報網で鍵のことを知り、洋太達に接触してくる。
彼が鍵と錠の何に惹かれたのかは分からない。だが、彼らと利害が合えば協力する。そういう立ち回りのキャラだ。
銃以外扱えなかった洋太に、素手での近接戦闘の方法を教える第一の師匠でもある。ここまで来るとライバルキャラと言ってもいいのか謎だが、単行本のおまけページで作者がライバルキャラとキャラ紹介に書いていたので、ファンがなんと言おうとライバルキャラだ。
ちなみにプロフィールの殆どが、はてなマークで埋め尽くされていたぐらいにはミステリアスでもある。書かれていたのは身長と体重、それと学年くらいだ。
そしてわたし――錠乃優愛は颯介の一族が仕えていた錠乃家の人間であり、物語の開始前に死んでいる。この物語における重要人物だ。姿が明らかになったのは最近だけど、名前とか存在は連載の最初から存在した。
錠乃家の人間が死んだことで、重要アイテムである錠は行方知れずとなった。しかしわたしが死ななかったことで、錠は今もここにある。
自分の胸元を見れば、キラリと光を反射する錠がある。持ってみると重い。錠は確かな重さと共にここに存在している。所有者はわたしだと錠自身が語るかのようだ。
錠に何があるか。残念なことにもう少しでそれがわかる所だった。わたしが死ぬ前に読んだ本誌は、行方知れずとなっていた錠をついに見つけた洋太達が、その近くにいた錠乃家を襲った黒幕を見て驚く所で終わっていたんだ。
つまり、あと一週間。生きていればセブキーの謎解きがされていたのだろう。読みたかった。ずっと楽しみにしてたのに、死んで読み逃すなんて。本当に悔しい。考察とかも読み込んで、わたしも色々考えてたのに。
「うぅ……最後まで追えなかったの、本当に悔しいなぁ」
悔しいけど今はそれどころじゃない。まずはどうにかして、今が本当に物語開始前なのか調べなくては。
ボロボロで行き倒れていたわたし。そんな私を助けてくれた桜也。
わたしの知っている原作には二人が知り合いだったとか、桜也が助けたことがあるとか、そういったことはなかったはず。
語られてない可能性もあるけど、錠乃優愛の写真を見た雨宮桜也は、特になんの反応も示してなかった。もしそんな設定があるならあそこで何かしらの描写があったはず。
考えられる可能性はいくつかある。その中でも有力なのは多分、あそこで死ぬはずだった錠乃優愛は生き延びてしまった、という可能性だ。
自分の体を見れば傷が多いし、かなり深い傷もある。もし桜也以外の誰にも見つけられずにいれば、死んでいたかもしれない。そしてそれこそが正史だと考えられる。
錠乃優愛の死体の発見場所とか、死因とかは作中で描写されてない以上、ハッキリとはわからない。
でもさっき見た自分の姿。記憶が無いから断言は出来ないけど小学校に入学しているか、それより少し前かぐらいの年齢だ。錠乃優愛が死んだのも、颯介の発言からその辺りの年齢だと思う。
錠乃家を狙う人は、この現代ではほとんどいなかったらしいと作中で語られている。つまりこの年齢くらいで死にかけることは、二回もないと思う。作中の話と矛盾してしまう。
いや、既に雨宮桜也と錠乃優愛が出会うという、存在しない可能性の高い出来事が起きてるんだけど。それに関してはわたしのせいだろう。
おそらく記憶をなくす前のわたしも前世の記憶を持っていたか、それか何となく覚えていたか。つまり物語開始前の優愛の行動が、何かしら変わっていた可能性が高い。
そのせいで本来ならありえない展開になっている、というのが今できる最大限の推測だ。
「…………これからどうすればいいんだろう」
死ぬはずのわたしが生きていれば、本来のお話通りにはならない。
でもわたしは死にたくない。たとえ大好きな作品をねじ曲げてしまうのだとしても、わたしは生きたい。生きなきゃいけない。そう強く思うのは前世も早く死んでしまったのに、それよりも早死なんて嫌だからに決まっている。
でも原作がごちゃごちゃになったら、世界が大変なことになる。錠に何が封印されているのかは明らかにはなってないけど、封印が解けたら大変なことになるから錠乃家が管理をしていたのだ。
錠乃優愛としての記憶は無いけれど、錠乃の名前を持つ者の責務は原作を読んでいるから分かっている。これを下手な人間に渡してはいけない。
これから本当にセブキーのストーリーが始まるなら、鍵を巡る戦いが起きるなら、いずれ錠を狙う者もでてくる。何の力もないわたしに、この錠を守ることはできるのだろうか。
「重い、な」
不安が喉元までせり上ってくる。わたしはそれを飲み込み、ただ耐える。恐怖と責務。わたしに何ができるのだろうか。
いくら考えても何も浮かばなかった。
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