第2話「ラブ清水、商店街に現る」

商店街が、ざわついていた。

のぼり旗が風にはためき、提灯がずらりと並ぶ。

年に一度の「商店街〜ばってん祭り〜」。

今年は例年と違い、ステージや屋台だけでなく――

“ファッションショー”まであるという。


マナカキッチンの前では、マナカが張り切っていた。


「見て見て! “奇跡のシチュー”特製屋台バージョン、完成です!」

「マナカさん、それもう“奇跡”というより“賭け”の領域ですよ」

美波の冷静なツッコミにも、マナカは笑顔満開。

萌華の萌は、隣のブースで酢豚丼を売りながら叫んだ。


「マナカ! うちの酢豚のほうが行列できてるからね!」

「勝負よ、萌! こっちは奇跡が三倍入ってるんだから!」


そのやり取りを、ロシータが優雅に眺めていた。

日焼け止めの香りとハイヒールの音。

商店街の誰よりも“異国”を纏う姿だ。



仮設ステージでは、美波とタカシのバンド「carrot」の演奏が始まる。

軽快なギター、透き通る声。

枝豆ギター教室の子どもたちも、一生懸命コードを押さえていた。


祭りは大盛り上がり。

しかし――

その中心で、最も注目を集めたのはロシータだった。


「それでは皆さん、お待ちかね!

ロシータ・プレゼンツ『Beauty & Soul』、始めます!」


商店街の特設ランウェイ。

ヘアメイクショーとファッションショーが融合した、夢のステージ。

地元の学生や主婦たちがモデルとして登場し、

ロシータ自らがヘアメイクを整えていく。


観客席では東がぽつり。

「……いつものロシータさんと違うな」

「そうね」美波がうなずく。

「かっこいい…。」



そして、ショーのクライマックス。

照明が一斉に落ち、ステージが暗転。

静寂の中、スポットライトが一筋。


その光の中を、ひとりの女性が歩いてきた。

背が高く、気品に満ち、まるで彫刻のような輪郭。


「え……あれって……!」

「うそ、ラブ清水じゃん!?」


世界的トップモデル、ラブ清水。

SNSフォロワー二千万超のファッションアイコンが、

まさかの“商店街〜ばってん祭り〜”に降臨。


観客が一斉にスマホを掲げ、歓声が上がる。

ロシータとラブ清水がステージ上で目を合わせ、

互いに微笑み――そして、抱き合った。



祭りの夜。

マナカキッチンの明かりの下、

打ち上げが始まっていた。


テーブルには、マナカ特製“奇跡のシチュー”と萌の酢豚。

そこに並ぶ二つのグラス。

ロシータとラブ清水が、静かに赤ワインを注ぐ。


「まさか、あなたが来てくれるなんて思わなかったわ。ありがと。」

「約束したでしょ、ロシータ。

“いつか、また一緒に笑おう”って。」


二人はグラスを合わせ、微笑む。

店内には穏やかな音楽と、柔らかな笑い声。


だがその和やかさの中、ふとラブ清水が言った。


「ねぇ、ロシータ……あの時のこと、もういいの?」


ロシータの笑顔が、一瞬だけ止まる。

ワインの赤が、静かにグラスの底で揺れた。


「……えぇ、過ぎた話よ。」



マナカキッチンの夜は、ゆっくりと更けていく。

笑い声の影で、

ひとりの人間が過去の痛みに触れたことを、

誰も知らなかった。

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