第14話 調査には、
「あら、もう帰ってきやがりましたの……」
家に帰ると †漆黒の堕天使† ちゃんが死相を浮かべている。
「ちょちょちょちょっとこっちにきやがりなさイギィっ!?」
俺を連行しようとして、静電気が走ったみたいに手を引っ込める †漆黒の堕天使† ちゃん。
破魔のお札の効果は健在だ。
「(どういうことでやがりますの!? どうして封神巫女なんてつれてきていやがりますの!)」
「あ、わかるんだそういうの」
「(あたりまえですわ! 私を殺す気ですの!?)」
「(俺は別に成仏してもらっても一向に困らない)」
「(呪い殺しますわよ!?)」
へへーん、できるもんならやってみな。
……できないよね?
え、自分の存在と引き換えに――メガンテみたいなこと、できないよね?
「あの、お邪魔やったやろか? わたし帰った方がよかやろか?」
ヤバい、燈火ちゃんが「担当を下りる口実見つけたー」って具合にそわそわしてる。
「とっとと帰りやがれで――みっぎゃぁぁっ!?」
とりあえず、破魔のお札で、燈火ちゃんから見えない角度でぺちぺちと叩いておく。
「ごめんごめん。こいつが心当たり。ひょっとしたら、
「へえ、こん人が……」
燈火ちゃんがずい、と †漆黒の堕天使† ちゃんに顔を寄せる。
†漆黒の堕天使† ちゃんが顔色を悪くして、酷く狼狽している。
絶対内心で、本来の力があればこんなやつに遅れなんてとりやがりませんのにーとか思ってる。
「わたしは
「は、はい……。いまお茶をお出しします……。どうぞリビングでお腰掛けください……」
人の家の茶棚を勝手に漁るな。
「(ど、どういうことですの? 封神巫女が、どうして私を見逃すんですの?)」
「(あー、怪異と人の見分けがつかないんじゃね? 俺も、知らなかったら怪異だと思わないし)」
「(私そんなに人間臭いんですの!?)」
†漆黒の堕天使† ちゃんがアイデンティティを失ったみたいに膝をついて絶望している。
「(というか、『不動明王』を憑かせやがる巫女のくせに気づかないなんてありえやがるんですの?)」
「(そんなことまでわかるの?)」
「(残り香が酷いですわ)」
神様って臭うんだ……。
いや怪異的な感覚なんだろうけど。
「(まあ、燈火ちゃん巫女になって一日だから)」
「(一日!? 初日で既に『不動明王』を憑かせてやがるんですの!?)」
「(超大型新人だから、消されたくなかったら媚売っとけよー?)」
「(じょ、冗談ではありませんわ! 誉れ高き私が、一介の小娘ごときに尻尾を振るなんて――)」
キッチンからリビングの机にお茶と茶菓子を持ち運ぶ。
「わぁ、おいしそうな羊羹ったいねー。本当にいただいてもええんやろか?」
「ええ、もちろんですわ」
爽やかな営業スマイルで応対する †漆黒の堕天使† ちゃん。
秒でプライド捨てたな。
「それで、どぎゃんして
羊羹もぐもぐタイムを堪能しながら、燈火ちゃんが †漆黒の堕天使† ちゃんを見る。
「え、えーと、ですね」
†漆黒の堕天使† ちゃんの顔色がますます青白くなっていき、額からは玉の汗をじんわりと噴き出させている。
「えーと、えーと……」
涙目になりながら、 †漆黒の堕天使† ちゃんが俺を見る。
「(ど、どうしろって言いやがりますの!?)」
「(え、怪談の逆探知とか得意だろ?)」
俺の居場所を突き止めて、押しかけ訪問までしてきたんだし。
「(その方法を言ったら、私が怪異だとバレてしまうではありませんか!)」
「(ダメなの?)」
「(あたりまえですわ!?)」
俺としては †漆黒の堕天使† ちゃんから情報を引き出し、そのうえで祓われてもらうのが一番おいしい展開なんだけどな……。
仕方ない。
現状、脅威度は †漆黒の堕天使† ちゃん ≪ 超えられない壁 ≪
うまいこと誤魔化してやるか。
「えーと、実はこいつ、これでSNS上では人脈が広いんだ。さっき見せた
「ああ、 †漆黒の堕天使† さん!」
「違っいますわーっ!」
「ん?」
「はいそうでした私が †漆黒の堕天使† でしたわ」
涙目になりながら「どうして私が、こんな屈辱を……」と歯噛みする敵ヒロインちゃん。
「餅は餅屋、蛇の道は蛇。SNSのことはSNS担当大臣にまかせようってこと」
「なるほど、そういうことやったとね」
ようやく得心いった、と手を叩く燈火ちゃんと、SNS担当大臣という称号にダメージを負っている †漆黒の堕天使† ちゃん。
「じゃあ、少しくつろいでいやがれですわ。噂の出所、調査してみますわ……」
そう言い残して、 †漆黒の堕天使† ちゃんは二階に上がってすぐ右手の部屋、つまり俺の部屋へとこもっていった。
その部屋にはアプリもタブレットもPCも無いのだが、まあそこは燈火ちゃんにバレなければ問題ない。
「妹さんかお姉さんと?」
「いや? 居候。ぬらりひょんか貧乏神みたいなもんだよ」
「そやったら妖怪とよ」
ころころと八重歯を見せて笑う燈火ちゃん。
妖怪で大体あってるんだよなー。
「あ、羊羹もっといる?」
「ええの!?」
「もちろん」
ふふふ。
燈火ちゃんの好物が羊羹なのは把握済み。
好きなものを送って好感度を上げるのはギャルゲーの定石。
この調子で好感度を上げて、俺がピンチの時には駆けつけてくれるくらいに仲良くしてくれると嬉しい。
「おいしか~っ」
しっかし、幸せそうに食べるよね、燈火ちゃん。
見てるこっちまで楽しい気分になれる。
◇ ◇ ◇
しばらくして、二階から少し駆け足気味で階段を下りてくる足音がする。
「わかりましたわよ! 怪談の根源!」
「もう見つかったと?」
「超特急で調べましたわ」
ぼそりと、「だからさっさと帰りやがれですわ」と付け加えたの、俺は聞き逃さなかったからな?
これ、燈火ちゃんにも聞こえてるんじゃね?
「こほん。件の怪談、
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