第6話 交渉には、

「か、考えすぎだって」


 これ以上詮索されるとボロがでる。

 そんな気がして話題を切り上げる。


「それより、投稿を消して欲しいんだったよね? 具体的に、消した場合に俺に何のメリットがあるの?」

「それではこういうのはどうでやがりますか? 私はあなたに手を出さない」

「お札があるから手出しできない、の間違いでしょ」

「く……っ」


 そういえばSNSの通知切ってたなー、なんて思いながら青い鳥のアイコンのアプリを起動してみる。


(い、1万いいね超えてる……!?)


 リツイート数も2千を超えている。

 な、なんでこんなに話題に!?


 引用リツイートを調べてみると、こんな投稿が一番上にある。


┌――――――――――――――――――┐

 ぶるっく@オカ研

 @brook_occult

├――――――――――――――――――┤

 RT

 半ば伝説となった†漆黒の堕天使†さん

 が浮上してる件

 いまはもう知らない人も多いのかな

 久々に振り返りたいんだけど、誰か事件

 記録を保存してる人はいませんか?

 ┌――――――――――――――――┐

  †漆黒の堕天使†

  @Jet_Black_Fallen_Angel

 ├――――――――――――――――┤

  これはおっぱいの話なんですが、明

  日午後8時、恒凪市旧鎮守藩蔵屋敷

  で死ぬ程...

 └――――――――――――――――┘

├――――――――――――――――――┤

 Φ:12 ★:568 ♥:2.2k

└――――――――――――――――――┘


(伝説ってなんだよ!)


 その事件ってやつにも心当たりがないんだが?


 詳しく調べてみようとするも、「あの事件って何ですか?」とか、「釣りですよ」とか、真相とは無縁そうなツイートばかり目に入る。

 どうして誰も言及しないのか。


┌――――――――――――――――――┐

 裏側ハッキング

 @back_hack

├――――――――――――――――――┤

 RT

 いまだにあの事件のこと書き込んで消さ

 れてるバカがいるみたいだな

 忠告する

 あの事件はタブーだ

 命が惜しければ…沈黙しろ

 ┌――――――――――――――――┐

  ぶるっく@オカ研

  @brook_occult

 ├――――――――――――――――┤

  RT

  半ば伝説となった†漆黒の堕天使†

  さんが浮上してる件...

 └――――――――――――――――┘

├――――――――――――――――――┤

 Φ:0 ★:2 ♥:18

└――――――――――――――――――┘


 引用リツイートを一番下までスクロールしてみると、「このツイートは削除されました」ってのが結構な数あることに気付く。


(なんなんだあの事件って……!)


 いや、予想はできる。

 俺が意識を取り戻した1年前よりさらに前、俺の知らない俺――岡元おかもと椎太しいたは昏睡するレベルの事件に巻き込まれている。

 たぶんその事件のことだ。


 だが、中身の見当が全くつかない。

 原作知識をもってしても、だ。


┌――――――――――――――――――┐

 卍現実ブレイカー卍

 @Rea_Bre

├――――――――――――――――――┤

 拙者、なんと†漆黒の堕天使†氏とリア

 ルで遭遇してしまったでござる

 中身はまさかの美少女だったでござるよ

 (*´Д`)ハァハァ†漆黒の堕天使†氏、拙者が

 なんでも教えてあげるでござるからね

├――――――――――――――――――┤

 Φ:108 ★:4.1k ♥:10k

└――――――――――――――――――┘


 これは……関係無いな。


「ねえ、聞いていやがりますの?」


 ふと視線を上げてみると、目と鼻の先に爆乳美少女がいた。

 俺は頷く。


「もちろん。でもさ……熱力学第二法則の話なんてされても、正直何が何やらさっぱりで――」

「してませんわ!? そんな複雑怪奇な話いっさいしておりませんわ!?」

「え、そうだったの? ごめん今度はちゃんと聞くからもう一度話してくれる?」

「やっぱり聞いていやがらなかったんですわね!? ムキー!」


 と、言いながらもきちんと最初から話してくれる敵ヒロインちゃん。


「だから、取り消してくれるならこのおっぱいを好きにしてくれてもいいって言っているんですの」

「うわぁ……」

「乳を盛った本人がどうしてドン引きするんですの!?」


 いや、そりゃ品性の無い女性に興奮できないからってのが一つあるけど、それ以前に。


「悪霊に戻ったら、おっぱい触れなくね?」

「……」


 ハッとして押し黙る敵ヒロインちゃん。

 あほなのかな?


「あのさ、もっとまじめなやつ提案してくれない?」

「え、ええと……でしたら」


 顎に手を当てて考え込む敵ヒロインちゃんを見て、俺は内心で、俺を説得できる交渉材料が出てくることはないだろうな、と考えていた。

 だってこいつを悪霊に戻すより、痛々しい中二病のままにしておいた方が安全そうだし。


「では、こういうのはどうかしら?」


 すまない。

 不憫だ、と同情できないことも無いけれど、恒凪に住む市民のためだ。

 怪異であることを諦めてくれ。


「私が本来の力を取り戻したら、あなたをあらゆる危機から守る守護霊になって差し上げてもよろしくってよ」

「……なんだって?」

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