1-2
「ふーむ、身体は
「へい、かしこまりました!」
横から
「お姉様、
同情するような
しかし、
首を傾げていると、乙羽は
「祝言よ、祝言!」
「しゅうげん、って……?」
聞き返すと、乙羽は心底
「やだぁっ、そんなことも分かっていなかったの! まぁ、お姉様は頭が悪いものねぇ。字も読めないくらいだもの。いいわ、教えてあげる!」
頭が悪い、と
「お姉様は、あの領主と
その言葉に、小夜の目の前が真っ暗になる。
(結婚?)
「何で、私が……」
「あははっ! 六年前にね、『村長の娘を領主の次の妻にせよ』って、土地神様からのお告げがあったのよ。だけどあの権兵衛って領主、
んやお
(代わり?)
嫌な予感で、全身から
「――それが、お姉様よ!」
その言葉で、全てが頭の中で
小夜は――乙羽の身代わりとなるため、村長家に引き取られたのだ。
聞いてもいないのに、乙羽は楽しそうに
「領主様はね、ここの土地神様の
わざとらしく手を合わせた乙羽は
(……生贄、生贄か)
かつて老婦が
今の小夜だって似たようなものだ。『土地神の末裔』だというあの領主に捧げられるためだけに、引き取られた。そして
(乙羽だって……昔はあんな子じゃなかった)
出会った頃の彼女は
(乙羽の代わりに、あのおぞましい領主の妻になれだなんて……!)
人を人とも思わない
寝泊まりしている屋根裏の四角い窓が、小夜の視界に入る。
(逃げなきゃ)
拾われた六年前の、冬の寒さを思い出す。正造たちの策にかかって権兵衛と結婚させられるくらいなら、道端で凍え死んだ方がまだ良かったのに。小夜は本気でそう思った。
しかし祝言を前にしてもなお放置されているのは不幸中の幸いと言えるだろう。祝言の意味も知らぬ
女中たちに隠れてくすねた食糧を包み、身体に巻き付ける。今回は凍えずに済むよう、持ちうるだけの衣服を重ねて着込むことにした。
屋根裏にある布を切って結んで、窓から垂らす。身体を動かすのは久しぶりで、幾度もずり落ちそうになったものの、何とか三階から
息を殺して、走る。村の明かりが見えなくなるところまで、小夜は必死に
やがて身体にまとわりつく
布で包んでいた荷物から
「これ……」
薄い木材で組み立てられた、簡素な祠。それは明らかに、土地神を
思えば老婦と暮らしていた頃は、しょっちゅう祠に手を合わせていたものだ。彼女の具合が悪くなってからは毎日、快復するようにと一心に
こうして小夜は、いくら願っても神には届かないことを知った。神など信じなくなった。
(そういえば……領主が土地神の『まつえい』だから、逆らえないって言ってた)
何が土地神だ、とんだ
ははは、と
そのとき、そばに落ちていた
神などいるものか。だけど、もしもいるのなら││ 。
(――
祟れるものなら祟れば良い。殺せるものなら殺せば良い。いや、むしろ死なせてくれれば良い。一人逃げ出した小娘がまともに暮らせるはずがないことくらい、本当は小夜だって分かっていた。行き場のない
ぐしゃり。
しかしその直後、小夜は不思議な男に出会った。出会ってしまった。
「
「別に良いよ……ちょうど、死にたかったところだから」
「くっ……あははは! 何それ。ふふ、祠を
ゆっくりと男の
「――死なせてあげないよ」
こうして小夜は、神の手に
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