気まぐれな神の罰当たりな寵愛

汐屋キトリ/ビーズログ文庫

序章 少女、祠を壊す

(神様なんていない。いるはずがない。だって)


 もしもいるなら、どうしてただ一人だけやさしかったおばあさんは、あっなく病でくなった? どうしてあのしきに住むどうたちが、ばっされずにのうのうと生きている?


(どうして、必死に生きていただけの私が、こんな――)


 うつろな目をした少女は、にぎったくわりかぶる。ねらいは、眼前の小さなほこら

 鍬は見た目よりも重い。少女は後ろにひっくり返りそうになるのをってえ、何とかそれを振り下ろした。

 ぐしゃり。木がひしゃげる音がしたかと思うと、だれもいなかったはずの背後からちがいなほどのんびりした声が聞こえた。


「へぇ、こわしちゃったの? それ、土地神様の祠なんだけどな」


 人がいたとは思わず、少女のかたがびくりとふるえる。振り返ると、一人の男が立ってこちらを見ていた。

 すぐそばにろうそくがあるとはいえ、真夜中のくらやみでは、その男のかみの色も目の色も、その表情さえもよく見えない。

 ちろちろとしただいだいの光に照らされた彼が、あやしげにくちゆがめる。十代後半にも三十代前半にも見える男は、不思議なことに、せいれんさと色気の両方をまとっていた。


ばちたりだなぁ。これは君、死んだね」


 くつくつと低く、のどの奥で笑うような声が聞こえる。彼のひとみの奥には、ぞっとするような冷たい光が宿っていた。背筋を冷たい指でつぅ、となぞられたかのようなかんしょくが走る。


( ――死、か)


 おそろしいはずのそのひびきが、今だけはひどかんに聞こえる。少女はこくはくみをかべ、口を開いた。


「別にいよ……ちょうど、死にたかったところだから」


 すると男はいっしゅんきょとんと目をまばたかせ、それからしたのだった。


「くっ……あははは! 何それ。ふふ、祠を壊されて、はて、どうしてやろうかと思っていたけれど……それなら」


 詩をむかのように朗々と言い放った彼は、少女に手をばし―― 。


「――死なせてあげないよ」


 ぷつん、と。少女の意識はそこでれた。


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