エピローグ

ハッハッハ、真打は遅れて登場するのですよ

「ちょっと待ったー!」


 演技がクライマックスを迎えようとしていたまさにその時、店の扉が勢いよく開け放たれた。その場にいた全員が一斉に振り返る、そこには1人の男の影が。


「ま、マスター!?」「ポニ!?」

「やぁ亜希也くん、ポニーさん。突然留守にして申し訳なかったね」


間違いなくマスターだった。長身に整えられた白い髪、そして口髭をたくわえたその姿は、この店の屋台骨たるマスターその人であった……いや、それは間違いないけどさ。おいらもポニーさんも、驚いたのはそんなことじゃない――マスター、その登場の仕方はなによ? タイミングすぎない?


「おっと、お喋りは後にしましょう――皆さま、本日はご来店いただき誠にありがとうございます。皆さまは今、それぞれメニューを1つ、思い浮かべておられるでしょう。そのメニューをこの私が、全て当ててご覧に入れます」


 観客は全員、目が点となっている。そりゃそうだ。突然外から現れた、ここまでの演技の流れを何も知らないはずの人間がメニューを当てるといって、誰が可能だと思うかよ?


「おや、不可能だとお思いですね? しかし皆さま、お気づきでないでしょう。実はこの私、遠く離れたところから皆さまに、あるメニューを必ず思い浮かべるようにおまじないをかけていたのですよ」


空気がザワつく……あの、マスター? こんなことを聞くとアレだけど、大丈夫だよな? 何かおいら(ポニーさん?)の見せ場を奪ってまでしゃしゃり出てきやがりましたけど、アンタここで外したらただのヤバい人よ? 季節の変わり目に出てくるオカシナ人だって通報されかねませんぜ? 悪評が立って店が潰れたら、ちゃんと次の職場斡旋してくれるんだろーな、オイ。




「お客さまの思い浮かべておられるメニューは……そして、が思い浮かべておられるメニューは――――ずばり、特製キノコのオムライスです!」




 当たった!? いや、そりゃいいんだ。当たるのは問題ない、何故って当たるように仕組んだから。お客の反応を見りゃ、外れたのが1人もいないのは明らかだ。驚きの声を上げる客、口を両手で抑えてかたまる客、思わずのけぞる客、カードに仕掛けがないか必死になって改める客、エトセトラエトセトラ……ああそこのお客、テーブルの下に隠しカメラなんかないから安心してくれ。あったらとうの昔にウチのマスター、○撮で捕まってるから。

 

 そんなことより聞いてくれ、そこのアンタ。いまおいら達が一番、ビビってんだ――何でマスターが当てるんだよ!?


「ハッハッハ、当たったようですな。私、ホッといたしました……さて、余興はこれほどとしまして。お待たせいたしました、只今から皆さまのご注文を承ります。ご安心を、今度は各自お好きなものをご注文ください」




「「――――エ゛」」




「え」に濁点、日常の会話ではまずあり得ない音が飛び出したのは、このホールと厨房をつなぐ入口から――おお、ユキっち、ぱろ☆さん。2人とも両手にトレーを抱えてやがる。当然その上に乗っかってるのは大急ぎで作ったに違いない、ふわふわ卵のオムライスの皿、皿、皿――。


「由紀くんにぱろ☆さん、ご苦労さま。厨房は私に任せて、君たちはマジックを……おや、どうしたんですか?」


カワイソーに、ユキっちもぱろ☆さんもその場でへたり込んじまった――いやまぁ、おいらだって同情するぜ。今回1番ワリを喰ったのは、どう考えてもお前らだしな。20人分のオムライスはまさか捨てるわけにもいかず、この後おいら達5人で腹パンになりながら平らげた……うっぷ、しばらくオムライスは見たくもねぇや。


 ちなみに後でこっそりマスターに、何でメニューを当てられたのか聞いてみた。マスターはひとこと、「メールの文面は読みましたか」と言ったきり、全く取り合っちゃくれなかった。結局のところおいら達は全員、マスターの掌の中で踊らされたということなのかもしらんね……。


<終>

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