おまけ(用語集)

・オルラム・サトルティ


 カードマジックの技法テクニックの1つ。技法というよりは、サトルティ(subtlety=巧妙さ)と名がつく通り、カードの巧妙な見せ方(ディスプレイ)といった方が近い。ちなみにオルラム(olram)というのは、この技法の考案者であるマーロー(marlo)のアナグラム。

 どういう見せ方かは、詳しく解説するとネタバレに繋がるので控えさせていただく。予言マジックなど、様々な手順で応用の利く便利な技法だが、筆者はあまり用いない。


・ムトベパーム


 コインマジックの技法の1つ。日本のアマチュアマジシャン・六人部慶彦むとべよしひこ氏によって考案されたため、この名がついた。

 コインを隠すことのできる画期的な方法で、発表当時は大いに話題となったと聞いている。大変優れた技法だが、実践投入するにはそれなりの修練と、また自然な形でこの技法を用いるために手順を工夫する必要があるため、なかなか一筋縄ではいかない難しさがある。


・ラショーモン・プリンシプル


 マジックを構成するための原理の1つ。語源は芥川龍之介の『羅生門』――ではなく、黒澤映画の『羅生門』より。

 作中で事件の目撃者がそれぞれ異なる証言をするところから、「同じ現象でも立場が違えば異なった受け取り方をしてしまう」ことを利用したマジックについて、その構成原理をラショーモン・プリンシプルと呼ぶようになった……らしい。

 多分この説明ではわけがわからないだろうが、そういうものだと思って諦めてほしい。ちなみに社会科学の分野では、「羅生門効果」と言うそうな。


・イモーショナル・リアクション


 カードマジックの手順プロットの1つ。観客が思い浮かべたカードを、まさしく「心の反応」を読み取るという演出で当てるマジック。原理は非常にシンプルだが、知らない人には本当に心の中を読み取られたかのような錯覚を与える、傑作中の傑作。

 技法的負担の少なさから初心者向けのマジックとして紹介されがちだが、不思議に見せるためにはそれ相応の話術が求められる。加えて演技が冗長になり易く、観客にストレスなく楽しんでもらうのは意外とハードルが高い。ある意味、演者の(テクニック以外の)実力を測るのに適したマジックともいえるかもしれない。


・スライディーニ


 イタリア生まれのマジック界の巨匠、トニー・スライディーニのこと。本人の名を冠した「スライディーニ・シルク」等のマジックで有名。

 ここで解説するのも野暮というものなので、後述の「紙玉コメディ」の項目へどうぞ。


・紙玉コメディ


 原題は「Paperballs Over The Head」。スライディーニが演じたことで、瞬く間に世界中のマジシャン達によって演じられるようになったコメディ・マジックの傑作。

 演者は観客のうち1人をステージに上げ、紙で作った球を何度も目の前で消してみせるが、他の観客にはタネが丸わかりなのに、目の前で見せられているその客にだけはタネがわからないという、世にも滑稽なマジックである。「種が割れてしまえば単純」などと言ったりするが、これはそれを逆手にとったエンターテイメントともいえる。

 ま、四の五の言っている暇があったら、巨匠の実演をご覧いただくのがよろしかろう(↓)


https://www.youtube.com/watch?v=iKSxiiPpiiA


・ビトウィーン・ユア・パームズ


 本作の表題マジック……なのだが、実際には数理トリックがメインとなってしまっているのはご勘弁いただきたい(流石に小説で実演描写を延々と書くのは誰得なので)。

 本編中で解説した通り、観客から見たときに非常に「不可能感」の強いマジックであり、著者も大好きな手順である。実演動画をば――といきたいところだが、事前知識を持った上で視聴すると感動が大幅に減じられてしまう危険性があるため、リンクを掲載するのは控えようと思う(無念)


・OOTW


 カードマジック「Out Of This World」の略記。アメリカのアマチュアマジシャン、ポール・カリー氏が考案した、マジック史上に残る名作の1つ。観客が裏向きで自由にカードを分けると、あり得ないことにそれらが全て赤と黒の2つに綺麗に分かれてしまう。

 強烈な現象でありながらそこまで難しくないという非常に優れたマジックであるが、あまりにも有名になったため一般の方でもそこそこタネを知っている人がいるというのが玉に瑕といえようか。


・TTTCBE


 カードマジック「The Trick That Cannot Be Explained」の略記。日本では「説明できないカードトリック」等と呼ばれる。考案者はカナダ生まれの伝説のマジシャン、ダイ・ヴァーノン。

 説明できないとは何ぞ、と思われるかもしれないが、まさしくその名の通り、現象を説明するのが極めて難しいという、カードマジックの中でもとりわけ奇妙な作品である。

 一般の方にもわかるように説明すると、要はピアニストの即興演奏のようなものだと思っていただければよろしい。つまり観客にカードを混ぜてもらった状態から、演者がその場でマジックとして成立するように手順を即興で組み立てる演目ということである。著者のお気に入りの1つ。


・Blindfolded Lennart's Trick


 そんなマジックは存在しない――ということはなく、スウェーデンの怪物マジシャン、レナート・グリーン氏が実際に演じているトリック。但し、こんなタイトルはついていないが(笑)

 タイトルの通り、目隠し状態(Blindfolded)で特定のマークのAからKまでの13枚を探し出してしまうという、非常にパワフルなアクト。実は日本のお茶の間でも(本人が来日して)演じられたことがあり、ひょっとしたらご存じの方もおられるかもしれない。


実演動画↓

(当該手順は22:30辺りからだが、是非時間のあるときに全編通してご視聴いただきたい)


https://www.youtube.com/watch?v=1_oa8m5Oq00&t=1345s

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