第6話 本音
近畿大会初戦を終えて数日後。
俺は監督室に呼ばれ、一枚の封書を手渡された。
それは、JFA(日本サッカー協会)からのものだった。
「U15合同練習」への招集通知。
中学3年の代とはいえ、全国大会未経験の俺が選ばれるのは光栄なことだと分かっている。
頭では理解しているが、そんな理性とは裏腹に俺の心は高揚しなかった。
そこに書かれていた招集理由は、「戦術理解力と中盤のバランス維持能力の評価」だった。
つまり、「翼のような突出した才能はないが、チームの歯車として最低限の安定性はある」という、凡庸な評価だ。
翼のU18招集とは、雲泥の差がある。
「これは、お前が地道に積み上げた努力の結果だ、佐倉」。
監督は労ってくれたが、俺の胸には冷たい劣等感だけが広がった。
俺の10番の価値は、あくまで「翼の才能を引き出すための補助輪」でしかないのか。
俺が欲しいのは、他を圧倒する「自由な輝き」だった。
招集通知をカバンにしまい、下校の道すがら、U18の合同練習から戻ったばかりの翼と出くわした。
翼は初の召集で、それも飛び級世代の練習のはずなのに、疲労の色を見せず、むしろ楽しそうだった。
その頑丈な身体も羨ましいんだ。
翼。
こんなときにも下らない嫉妬心に苛まれる自分が嫌になる。
「悠真! お前もU15に呼ばれたんやってな。やったな!」
翼は心から祝福してくれた。
彼の純粋な光は、俺の心の闇を一切理解しようとしない。
「ああ、まあな。お前と違って、俺は補欠枠みたいなもんだろ。」
俺は皮肉を込めて言ったが、翼は気にも留めない。
「何言ってんだよ。俺、U18でOMFやらせてもらったんだけど、めっちゃ大変やったで。お前がおらんと、マジでパスの出しどころが分からんかった。やっぱり、お前の戦術眼は別格や」。
別格。それは、「俺が翼のようになれない」という、究極の肯定であり、否定だった。
俺は立ち止まり、翼を見る。
それに釣られて翼が振り返り気味に俺を見た。
目線がぶつかる。
「翼。もし、お前になれるなら、俺はこの9年間、サッカーボールを蹴った記憶すら全部捨てられると思う。」
別に意図があった分けじゃない。
ただ、伝えてみたくなった。
この日本代表召集のふとしたきっかけまでも逃してしまえば、永遠に向き合えない気がしたのかもしれない。
少し、迫れた気がしたのかもしれない。
俺の言葉に、翼の笑顔が凍り付いた。
彼は初めて、俺の心の奥底にある狂気的な渇望を感じ取ったようだった。
「…悠真、どうしたんだよ。」
「何でもない。ただ、次の決勝戦、お前のすべてを見せてくれ。俺は、それを超えるために、お前を最後まで利用させてもらう。」
俺はそう言い残し、翼の隣を通り過ぎた。
これが、俺の「凡庸の努力」による「天賦の才」への、本当の意味での最初の挑戦だった。
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