第5話 不完全な10番
近畿大会の初戦。
俺たちの相手は、堅守を誇る紀伊半島の強豪だった。
俺は再び背番号10を背負い、スターティングメンバーとしてピッチに立った。
俺のフィジカルは1ヶ月間の狂気的なトレーニングで10分程度は延長されただろう。 自己暗示するかのように、何度も心の中で言い聞かせるが、不安は晴れなかった。
暗い内心とは反対に、試合は前半から優位に進んだ。
俺の改善しつづける戦術眼と指示がチームを動かし、試合を支配する。
前半の2得点は、俺の正確なパスと、献身的な中盤の動きから生まれたものだった。
「お前がいなくても、チームは回る」
そう証明したかった。
たとえそれが、単なる意地に過ぎなかったとしても。
後半、1点差に詰め寄られ、膠着状態に陥る。
チームに流れを呼び込む決定的な1手が打てない。
俺は相手の守備を崩す1本のパスを脳内で探す。
しかし、視野の限界、トップには敵わないフィジカルでは、その1本を出すための1秒間の「タメ」すら作れない。
後半20分。
案の定、俺の足は再び痙攣に襲われた。
兆候はあった。
ただ、練習の成果を、そして翼のような才能があるんだと証明したかった。
「佐倉、交代だ!」
監督の無情な声が飛ぶ。
今回は、U15練習の疲労を考慮した翼はFWではなく、観客席の応援要員だ。
OMFの穴埋めは不可能。
俺は試合を通して分析した取るべき戦術を身近なMFになんとか伝え、神頼みの気持ちでベンチに戻った。
その後、敵もスタミナ切れが顕著に現れ、試合はそのまま2-1で勝利。
チームは初戦を勝利で飾った。
だが、俺の心は晴れなかった。
俺が50分間かけて築き、交代で10分間停滞させた流れを、もしあのとき翼がOMFに入っていたら、3点目、4点目と畳み掛けることができたのではないか。
試合後、観客席で見ていた翼が、笑顔で俺に話しかけてきた。
「悠真、ナイスゲームやったな!10番の支配力がすごかったわ。やっぱりお前はすげえ」
彼の褒め言葉は、心から純粋なものだと分かっている。
だが、俺にはその言葉が、「不完全な司令塔だが、よくやった」という皮肉にしか聞こえなかった。
そして翼は、何気ない言葉を漏らす。
「そういや、俺、来週のU18の合同練習に呼ばれたんや。中2やと初めてらしい」
翼の言葉は、俺の1ヶ月間の努力のすべてを、再び嘲笑った。
俺はU15の1ミリにも引っかからない。
しかし、翼はU15を飛び越えてU18に呼ばれる。
俺は一生、彼の背中を追いかけるだけの凡庸なのか。
俺の心の中で、再び「親友なんていらない」という、狂気の言葉が渦巻いた。
俺は、この嫉妬と渇望を、次の試合への燃料に変えなければならない。
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