第10話 生々しい偶像

「へえ…銀ちゃんがこれ作ったんだ」

「まぁ…」


改めて言うことに多少の恥ずかしさを感じるが、それ以上にりなからどんな評価を下されるのかに銀次朗はかつてない緊張をしている。しかしりなはにへらと笑い銀次朗の髪飾りをつけた。


「銀ちゃんやるじゃん!どう?似合ってる?」

「ああ…アイドルみたいだ」


銀次朗から見て、青い髪飾りをつけ不敵な笑みを浮かべている彼女はまさしく偶像そのものだったのだ。そして、銀次朗はどうしても伝えられなかった気持ちを伝えることにする。


「りな、ちょっといいか?」

「ん?なに?」


りなはいつもと変わらない笑顔で銀次朗を見る。彼はその目を決して逸らさないようにしながら言葉を紡いだ。


「りなは、アイドルとか興味ないのか?」

「…えーっと…それはどういうこと?」


明らかにりなの瞳が揺らいだのに気づいたがここで諦めてしまったら今までの自分とは何ら変わりがなくなってしまう。銀次朗は拳に力を入れて笑顔のままのりなに言った。


「これは俺の自分勝手な気持ちなんだけどな。俺はりながアイドルになってる想像をして作った。りながステージとかで踊ってるのを想像して…」

「やめて」


その時、初めてりなの顔が歪んだ。

ポーカーフェイスを崩さない彼女が見せたその表情はある意味で彼女の内面を始めて銀次朗に見せるようで、彼はどこか新鮮な気持ちを感じている。


「悪い…りなが嫌かどうかとか考えずに…」

「そうじゃなくて…ウチ、銀ちゃんが思ってるみたいなアイドルになれないから想像するだけ虚しくなるよって話」


銀次朗はりなの言い方に思わず声が出なくなった。

彼女はまるで壁を作るように、それ以上聞くなと言わんばかりに彼に言葉を刺す。しかし、ここで引き下がるほど銀次朗も臆病ではなくなっている。


「確かにアイドルになってほしいとかはおかしな言い草だし、りなの人生を俺が左右するのはどうかしてる。だけどな…りながって決めつけてるのはどうしてなんだ?」


(彼女の性格ならアイドルより可愛いとか言ってもおかしくない気がしてたんだが…)


少なくとも麗子さんに認められた作品を作ることができたということは、彼の想像する、歌って踊るりなの再現度が高かったということ。銀次朗はりなが頑なにアイドルになれないと考えることに疑問をいだいていた。しかしりなは震える唇を噛んでいるばかりで答えようとしない。


「無理に答えてほしいわけじゃないんだ。ただ…君がそんな顔してるのは見たくない」

「口説いてんの?…うん。今は答えたくないかな」


りなは純粋な笑顔を浮かべて銀次朗に背を向けて横になる。

銀次朗もその場に横になる。りなの背中を見つめながら。


「…銀ちゃん」

「どうした?」

「――ううん。なんでもない、おやすみ」


銀次朗は溶け切らない気持ちを押さえつけながらりなと同じようにおやすみと言う。


(ここの子どもたちは何かしらのを抱えているのが当たり前なのかもしれない。でもせめてりなには、特別な彼女にだけは寄り添えるようになりたい)


ありきたりなことでしかないのだろうがと自嘲しつつも、そのありきたりが彼女の支えになることを信じ彼はゆっくりと眠りについた。

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