《ついてくる女》④
【速報】T県S市で男性の刺殺体
T県S市の路地裏にて、男性の刺殺体が発見された。胴体を十数箇所刃物のようなもので刺され死亡していた男性は、同市在住の鎌田ヒトシさん(三八)と見られている。被害者男性は一〇年前に殺人未遂事件を起こし先日まで服役していたことから、警察は怨恨の可能性も視野に入れ、捜査を進めている。
この鎌田ヒトシってこの事件の犯人? https://※※※※※
奥さんDVして男作られて逃げられそうになったところを首絞めて植物状態にさせるとか無期懲役か死刑でいいだろ
DVって裁判所が認めてるんだ 殺されて当然だね
この人知ってるよ 近所で妻の霊がどうのとかずっとブツブツ言ってて、私の肩になにか見えませんかとか話しかけてきた
こわ
でも結局霊じゃなくて人間に刺されてるじゃんw
本当に怖いのは幽霊じゃなくて人間案件だった笑
※
植木鉢をあいつに向かって落としたとき、私はそれが逸れてくれて、少しだけ、ほんの少しだけだが、安心してしまった。……私はあの男と、鎌田ヒトシと、姉さんの夫だったあいつと違って、まだ人の心があったのだろう。
それからあの男は日に日にやつれていって、とても反省しているように見えた。自分のやったことに苦しんでるように見えた。
私は人間だから、反省している人間に直接手をかけるのは難しかった。
甘いと言われるだろう。姉さんだって私を天国で詰っているかもしれない。それでも、私はやっぱり普通の人間で。
それでも、バッグには常にナイフがあって、男を尾け続けていた。
今の私には、それを使う勇気なんてないのに。
ある日、男はとても胡散臭い名前の建物に入っていった。『新島心霊事務所』と書かれた、和風の屋敷に。
そしてその翌日、男はひと目見てヤバそうな消費者金融に入っていった。
ああ、騙されてるんだと、思った。
きっと彼には、姉さんの霊が見えているのだ。きっとそれは幻覚で、彼はありもしない幻覚に苦しめられているに違いなかった。私が植木鉢を落としたおかげかも知れない。それが幽霊の存在を彼に誤認させたのだろう。
何にせよ、男が騙されて搾取されているなら、歓迎せざるを得ないだろう。そのまま破滅してくれれば、どれだけ嬉しいことか。死ぬよりも苦しい借金地獄に陥るなら、きっと天国の姉さんも喜ぶに違いなかった。
しかし、そうはならなかった。
しばらくして、男はまたあの胡散臭い屋敷を訪れて、少ししてからまるで憑き物が落ちたかのような笑顔で出てきた。
おそらく、除霊してもらったのだろう。
霊などいるはずがない。霊がいるなら、世の悪人は全て犠牲者の霊に祟られて呪い殺されている。独裁者や虐殺者は存在することさえ許されないはずだ。
だが、現実はそうなっていない。
この男だって、今も生きている。
胡散臭い詐欺師に救ってもらって、生きている。
……だけど、その詐欺師に今は感謝したい気持ちだった。
だってそうだろう?
この男はほんとうの意味で反省していたのではないのだ。ただ、私の植木鉢を幽霊の仕業と勘違いして、祟り殺されるのを心底恐れていただけだ。その証拠として、男の笑顔はどこまでも眩しくて、出所してからこんな顔をしているのを見るのは初めてだった。
新島心霊事務所の詐欺師に、心底感謝したかった。
この男のメッキを剥がしてくれて、ありがとうと。
「……ああ、これなら殺せる」
自らの罪を背負い、心の底から反省する人間は殺せないが、この男なら。
ただ我が身可愛さで怯えていただけの男なら、殺せる。
私は胡散臭い幽霊屋敷に一礼すると、バッグに仕込んだナイフをぎゅっと握りながら、男の背中を追った。
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