シュールストレミング

 午前七時早朝。


「おら起きろ莉奈! 遅刻するぞ!」


「うう……もう少しだけ寝かせて~。三時間、いや三日~……スピ~」


 莉奈は朝に弱い。そんなことは長い付き合いだから分かっている。そこで今回、秘密兵器を持ってきた。


 俺はシュールストレミングの匂いをふんだんに吸収したティッシュを莉奈の鼻に突っ込んだ。


「くぁwせdrftgyふじこlp~!?」


「シュールストレミングのありがたい目覚ましだ。目覚めたか?」


 莉奈は女子にあるまじき咆哮を上げながらそちらこっちらに転げ回っている。これくらいしないと起きないと思ったからやった。


 後悔はしていない。するはずがない。好きな子ほどいじめたくなる現象といえばわかるだろうか。


「最愛の彼女にしていい所業じゃない~!?」


「おら、起きろ。今日はスポーツテストだぞ」


「うぅ~。いくら起こすためとはいえこれはひどいよ~」


「ああ、それはごめん。ちょっと臭すぎたか」


「ていうか、スポーツテスト~? いやだ、今日がこの家から出ないぞ~!?」


 そう莉奈が宣言すると、再び布団に包まってしまった。


 ゴキブリが出た時、俺はよくやっていた戦法を莉奈にやられる日が来るとは思わなかった。


 莉奈は運動音痴である。持久走では万年最下位、というか途中脱落もザラである。とにかく体力が基本的にクソ雑魚ナメクジなのだ。


 しかも、最近俺が広めた噂によって、噂の上では運動神経抜群となってしまっている。つまり、莉奈に対する全生徒のハードルがすこぶる高くなっている状態なのだ。


 これは完全に俺のせいだ。なにか、莉奈がスポーツテストをやる気になってかつ、贖罪できるようなことを言わなければ。


 ならば、俺にできることは一つ。


「もし、莉奈がスポーツテスト完走したら、二人でデートしよう」


 俺は莉奈に、スポーツテストを出汁にデートの申し込みをした。受け入れてくれるかは賭けだが、勝算はある。


 ていうか、俺たち付き合っているのだ。世間一般的な彼女だったら、飛びつかないわけがないだろう。


 あっ、莉奈が布団から顔だけ出した。ヤドカリみたいでかわいい。もう一声ということだろうか。

 

「スポーツテスト終わったらデートしよう。二人で」


「……デートかぁ~」


 すると、莉奈が脅威の早着替えで制服姿になった。


「よし、スポーツテスト頑張るよ~!」


 さらにもう一声要求されるかと思ったが、案外ちょろくて助かった。

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