第6話 あるじ♀は夜更かしする
夜。
時刻は日付をまたいで0時過ぎ。
ワイにとっては“朝”みたいなもんや。
レオパ界ではここからが活動時間。
ケージの温度は三十度、湿度五十五。
ヒーターもいつも通り稼働しとる。
よし。そろそろ夜行性のゴールデンタイムや。
……と思ったら、外の世界がまだ明るい。
あるじ♀がテレビとスマホをダブルで点けてる。
まるで世界が昼間に戻ったみたいや。
「夜の静けさ」はどこへ行ってしまったんや。
「コジロー、見て見て! これ可愛い~!」
スマホの画面をケージの前に突き出してくる。
ワイ、瞳孔がキュッて縮む。
「まぶしっ……!」
内容は知らんが、光だけでダメージ受けとる。
言うなれば、攻撃ならぬ、光撃。我ながら上手いな。
…いや、そうじゃないねん。
あるじ♀はテンション高め。
スナック菓子をポリポリかじりながら、
動画を見てゲラゲラ笑っとる。
「ねぇ、明日休みだからいいでしょ~」
……知らんがな。
ワイの活動時間は一定や。
休みも出勤も関係ない。
しかも、その菓子の匂い。
甘くて油っこい。
レオパ嗅覚的には“未知のフェロモン”。
「コジロー、ちょっと食べる?」
指先にスナックの欠片。
ワイ、両目を閉じて全力拒否。
あるじ♀、笑って手を引っ込める。
「だよね~。コジローはグルメだもんね」
そのまま動画を見続ける。
笑って、泣いて、ツッコミ入れて。
深夜テンション、謎の無限ループ。
ワイ、ガラス越しにジッと見る。
「ヒト♀、興奮状態。理性:オフライン。」
観察メモ追加や。
一時間後。
ソファに仰向けで寝たまま顔の前でスマホをいじっとる。
目を離した直後、
「っ! いたいっ!!」
寝かかったあるじ♀、顔面にスマホが落下した模様。
言わんこっちゃない。
毎度毎度、同じことしとるやん。
ほどなくして、あるじ♀、ソファで力尽きる。
スマホを胸に乗せたまま、静かに寝息。
スナック袋は半開き。
手は突っ込んだまま。
「ん…。まぶしぃ。。」
ん、起きたんか?
寝ぼけた様子で、テーブルの上に投げ出された二つのリモコンを次々に操作する。
テレビと照明が消えた。
惚れ惚れするほど華麗なリモコン捌きや。
ワイ、岩の上から見下ろして記録。
“対象:活動停止。原因:自滅型夜更かし。”
部屋は再び静かになった。
テレビの光がゆっくり暗くなっていく。
ヒーターの赤い灯りだけが、淡く残る。
ワイは岩の上に立ち上がり、レオパ的ゴールデンタイムのルーティンを始める。
本日の観察記録――
・時刻:深夜0時以降。
・対象:あるじ♀。
・行動:夜更かしによる興奮→寝落ち。
・被害:軽微(音害・光害)。
・対応:静観。
特記事項:「ヒト♀、いつもスマホが顔面に落下。学ばない。」
明日は、静かな夜になりますように。
いつ見てもリモコン操作は実に見事なんよな。しかも、ノールック。
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