第十五話:自浄の力と、共闘の誓い

水守の宮の最奥、美咲の自室。


美咲の装束は、『自浄(じじょう)』の成功によって、再び清らかな白と青の輝きを取り戻していた。彼女の肌艶も良くなり、体力の枯渇は解消された。


「龍神様、お見事です。自らの穢れを払い、生命力を力に変える『自浄』を、これほどの短期間で習得されるとは」みそぎは心から感嘆した。


「ですが、これでようやくスタートラインです」じんは厳しい表情を崩さない。「地下水脈の封鎖と汚染は続いています。この宮も限界です。今こそ、水源の奪還に向かうべきです」


美咲は頷き、碧斗あおとから託された木札を静かに懐に収めた。彼女の決断は、すでに固まっていた。


「戦うわ。でも、今度はくのかいノ会と敵対するわけじゃない」


美咲は、みそぎじんに、碧斗あおとから得たくのかいノ会の真実、すなわち「禁呪の力が本来は穢れの解毒のためのものであり、彼らの短命は辰砂による水源汚染が原因であること」を伝えた。


みそぎじんは、あまりにも衝撃的な事実に言葉を失った。


「…まさか、千年にもわたり、くのかいノ会が我々の敵ではなく、叢雲むらくもの呪いによって苦しめられていたとは」みそぎは深く息を吐いた。「となれば、彼らは我々の潜在的な味方となる。彼らの解毒の力と、龍神様の清浄の力が合わされば、辰砂しんしゃの汚染を完全に払える」


じんは即座に美咲に跪いた。「龍神様。くのかいノ会との接触には、このじんが単独で向かいます。危険すぎる」


「ダメよ、じん」美咲は首を振った。「一葉いちようくんと碧斗あおとくんは、私の元クラスメイト。くのかいノ会を説得できるのは、私しかいない。それに、『自浄』を覚えた今、私はもう一人でも戦える」


その日の夜。美咲は、碧斗あおととの再接触を果たすため、人目につかない宮の裏山を抜けて、街の廃墟へと向かった。


美咲が指定された座標に着くと、そこには待っていた碧斗あおとが、傷つき疲弊した様子で立っていた。


「松永!来てくれたのか…」


碧斗あおとくん。無事でよかった」美咲は安堵しつつ、本題に入った。「話はわかったわ。くのかいノ会の力は解毒のため。そして、辰砂しんしゃの狙いは私たちを互いに潰し合わせること」


碧斗あおとは、美咲の言葉の速さと、その瞳の迷いのなさに驚いた。彼は美咲がまだ憎しみに囚われていると思っていたのだ。


「お願いだ、美咲。僕たちは水源を封鎖してしまった。このままでは一葉いちようの命がもたない。君の清浄化の力で、僕たちを、そしてこの街の汚染を救ってくれ!」碧斗あおとは土下座せんばかりに頭を下げた。


美咲は静かに言った。「顔を上げて、碧斗あおとくん。私はもう決めた。戦うわ。一葉いちようくんと一緒に」


美咲は、碧斗あおとに作戦を伝えた。


辰砂しんしゃの真の狙いは、硬化させた水源の汚染。水脈が硬いままでは、穢れが内部で濃縮されてしまう。だから、まずくのかいノ会の禁呪で水脈の封印を解き、その後、私の清浄化の力で、汚染された水を一気に洗い流す」


碧斗あおとは目を見張った。「そんなことが…一葉いちように話しても、信じないかもしれない」


美咲は、静かに『自浄』で生み出した清浄な雫を一つ、碧斗あおとの手に乗せた。碧斗あおとの手首にある禁呪の紋様が、その雫に触れた瞬間、一瞬だけ青白い輝きを取り戻した。


「これが答えよ。私は敵じゃない。私たちが力を合わせれば、辰砂しんしゃの穢れに勝てる」


碧斗あおとは、美咲の力と、彼女の言葉に込められた強い意志を信じた。彼は、すぐに一葉いちようにこの作戦を伝え、一時的な共闘を持ちかけることを誓った。


美咲は、くのかいノ会という、千年を超えて背負わされた呪われた敵との戦いを、『共闘』という形で終わらせるため、水源奪還という新たな決戦の場へと、足を踏み出そうとしていた。

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