第5話 断られて神田と秋葉原の町をさまよいました
夜
外といっても何がある訳でもない。神田の町。まだ夕ぐれの残る町
本郷通りを逆戻りして日比谷通りから外堀通り
昌平坂でのバス停でまたベンチにへたりこんだ。
宵になって金星は見え始めるだろう。だが目をそむけている。
そのままバスに乗る。乗った途端に眠くなる。そのまま、後部座席で眠る。気がついたら浅草の吾妻橋。
降りて近くのファーストフードに入ってセットを食べる。それから、繁華街の方へ向かう。
遠くに見えた展望台。外を見て、そこでゲームをして、そこで、きつねそばを食べる。まだ日は残る。俺はそこで、観光ガイドを買う。下町と書いてあるエリアに行く。俺はそこの出店で、冷し飴を飲んで、饅頭を食い、せんべいを買う。そうして、どんどん歩いていくと遊覧船の走る隅田川につく。そこで日没。
「あなたに助けてもらって一緒にいてもらって感謝している。一生の思い出にする。」
だから星は探さない。
出来るだけ、人で混んでいる場所。遠くに見えたビルでオールナイトの三本立て上映を見る。どれもたわいないサラリーマン映画だったのですぐに眠る。
帰る気にはならない。仕方なくコンビニに入って、たらふく弁当を買い、お菓子を買い、クッキ-を買った。そうしていくつかの興味深いマンガ雑誌と文庫本を買った。そうして、3800円と書かれていて朝方でも開いていたビジネスホテルに入る。
夕方までいるためあらかじめ延長をお願いする。
自販機でビールを買って初めて飲む。すぐに眠くなる。壁は緑色のフェルトが貼ってあるチンケな部屋だった。
もう朝の光がさしこんでくる。一度起きたら昼の二時だった。だがまた寝た。
その後、何時間も寝て夕方の六時になっている。おそらく、朝六時すぎから寝ているから、十二時間ぐらい寝ていた事になる。
今日、日曜七時すぎからは千代田本社では西川さんと石田の送別会がある。
だが出る気にはなれない。
とにかく窓を開けてみる、するとすっかり暗くなった西の空に万世橋。その中にふと「レコード」の大きな文字が目に飛び込んできた。
宇宙の星の数ほどある電気店看板の中で、めだつ「レコード」の大看板。
あれはおそらく石丸電気の三号店。神田のみならず日本最大規模というレコード店。
ここになければ宇宙のどこにもないと言われる店。
突然、俺は彼女が言っていたある歌の名を思い出す。
あのこむずかしい名の歌手、フィッシャーなんとかの「夕星の歌」。タイトルは忘れてない。
自分は飛び出して閉店まぎわの店に入る。
うろ覚えの歌手名とタイトルを伝える。若い店員は即座に「ASC5123」と言った。
「フランツ・コンヴィチュニー指揮、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ出演 ワーグナー歌劇タンホイザー全曲。」とすぐさまレコードを持ってくる。
リストに「夕星の歌」とちゃんとある。「東西ドイツがまだ分断していた時代の貴重なステレオ音源。国内盤赤盤」と店員がつぶやく。
ああこれが今、自分がもつべきものだ。軌道は回り回って元のところに戻った。
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