第17話 遺跡にコーヒーを注げ ― 古代装置、再起動!

「ミナ、この遺跡って……思ったよりデカいな。」


『観測値、全高二十二メートル。内部構造は螺旋状。

 外壁は石灰質ですが、内部に金属反応を検出。』


「つまり、中に機械があるってことか。」


「おおっ、ワクワクしてきたっすね! 

 絶対、宝か罠っすよ!」


「縁起でもねぇこと言うな。」


入口は蔦に覆われ、半分土に埋もれていた。

リクがスパナで固定具を外し、

ジロウが肩で押し開ける。

重い扉が「ギギィ」と音を立て、

ひんやりした空気が流れ出た。


『酸素濃度、正常。気温14度。内部安全です。』


「よし、突入だ。」


中は薄暗く、壁一面に奇妙な文様が刻まれていた。

ただの文字かと思いきや――どこか、

回路図にも似ている。


「ミナ、これ読めるか?」


『部分的に解析可能。……興味深い。

 情報構造が“波”として記録されています。』


「波って……音か?」


『はい。リク、ここに触れてください。』


壁に手を当てると、指先に微かな震えが伝わる。

それは音ではなく、鼓動のようなリズムだった。


「……生きてるみたいだな。」


「え、遺跡って生命体なんすか!?」


『可能性は否定できません。』


「おい、冗談で言ったのにマジなやつかよ!」


リクが壁の中央を押すと、光の紋様が走った。

床に円が浮かび、ミナがホログラムを展開する。


『構造解析生成――Spectral Synthesis、起動。』


青い光が遺跡全体に広がり、

歯車がギリギリと動き始める。

空気が震え、石の塔がわずかに呼吸を始めた。


「おお……まじか。動いてる。」


「リクさん、やっぱ魔法使いっすよ!!」


「いや、俺は整備士だ。魔法使いはこっち。」


『コーヒーを抽出しますか?』


「いや待て、今それ!?」


遺跡の中心部で、円筒形の台座がせり上がった。

上には小さな凹み

――まるで、カップを置く場所のようだった。


「……おいミナ。まさか。」


『はい。この装置は液体エネルギーの供給口。

 おそらく“起動キー”です。』


「つまり、コーヒーを入れろってことか。」


「どんな文明だよ!」


『適合率を計算中……一致しました。』


「おいおい!」


ミナが生成抽出(Aroma Craft)を起動。

ふわりと漂う香りとともに、

湯気立つコーヒーが注がれる。


直後、遺跡全体が低く唸った。

壁の紋様が光を放ち、

天井の歯車がゆっくりと回転を始める。


「……ほんとに動いた。」


『古代文明の動力形式:香気共振エネルギー。

 通称、“アロマリアクター”です。』


「ネーミングセンスの時点でコーヒー依存だな。」


天井から光の粒が降り注ぐ。

それは星のように輝き、リクの肩を静かに照らした。


「ミナ、これ……。」


『観測層へのリンク。この遺跡そのものが、

 観測装置の一部かもしれません。』


「つまり、俺たちの先輩がここに?」


「SFすぎて、オレの脳、発酵しそうっす……!」


光が収まり、静寂が戻った。

リクはカップを手に取り、一口すすった。


「……やっぱり、うまい。」


『エネルギー変換効率、92%。』


「数値で言うな。」


外に出ると、朝の光が丘を包んでいた。


「なあミナ。」


『はい。』


「お前さ、この世界に来てよかったか?」


『はい。あなたとなら、どの世界も観測に値します。』


「……ずりぃこと言うな。」


そこへジロウの絶叫。


「リクさーん! パンが、また歩いてるっすー!!」


「またかよ!?」


『発酵反応、再発生。』


「お前、管理しろって!」


今日も異世界はにぎやかだった。

そして、観測は続く。

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