第16話 古代遺跡のコーヒー抽出装置(仮)

「おお……こりゃまた、立派な遺跡っすね!」


「遺跡だ。廃墟って言うな。なんか縁起悪いだろ。」


『分類上は“老朽化構造体”です。』


「いや、お前まで言うなミナ。」


三人の目の前には、半分崩れた石造りの塔。

蔦が絡み、中央には巨大な円盤状の

装置が鎮座している。


かすかに光る文様が、

まるで呼吸するように脈打っていた。


「うわ、動いてる……これ、魔法ですかね?」


「お前、なんでも魔法で片づけんな。これは――」


『エネルギー反応、確認。構造解析を開始します。』


「出た、ミナの“なんでも分解モード”だな。」


光が塔の中心を走る。

次の瞬間、装置が低く唸りを上げた。


「……ちょ、待て。これ、動き出してねぇか?」


『エネルギー源は地下水です。蒸留過程を検出。』


「蒸留!? つまり……!」


「コーヒーメーカーっすか!?」


「いや違――」


『観測的には、抽出装置に近い構造です。』


「やっぱりかぁぁぁ!」


ミナが淡々と補足する。


『ただし、抽出対象は不明。未知の粉体を検出。』


「未知って言うな、飲む気なくすから!」


リクが恐る恐る装置のレバーを引いた。

ゴウン、と鈍い音。

しばらくして、湯気とともに黒い液体が流れ出す。


「……見た目はコーヒーだな。」


「香りも悪くないっすよ? 

 ちょっとスパイシーっすけど。」


「飲むなジロウ! 未知だっつっただろ!」


ジロウが一口飲んで、にっこり笑った。


「……うまいっす! 舌がピリピリしますけど!」


『成分解析完了。

 主成分、カフェイン類似物質+微弱電解液。』


「お前、それ絶対バッテリー系だろ!」


「体がポカポカしてきたっす!」


「それ、発電してるんだよ多分!」



『リク。遺跡の内部に進入口を確認。』


「おいジロウ、元気余ってるうちに行くぞ。」


「了解っす! 今、全身がフル充電中っす!」


「たぶんそれ危険なやつだ。」


三人は通路を進む。

壁には複雑な線刻が走り、微弱な光を放っていた。


「なあミナ。これって文字か?」


『解析不能。ただし、波形が“音楽”に近い構造です。』


「音楽の壁か……異世界、芸術的だな。」


「でもリズムがバグってるっすよ。

 ドゥン、ドゥドゥン、ドゥン。

 これ絶対踊れねぇっす。」


「踊るな。」


『観測者の脳波変動を検出。軽い興奮状態です。』


「そりゃテンションも上がるだろ。異世界遺跡だぞ?」


『では、記録します。“観測者、はしゃぐ”と。』


「やめろ!」



通路の奥、巨大な扉があった。

中央には、見覚えのある模様

 ――《コメット》の風鈴を象った紋章。


「……おい、これ、どう見ても

 ウチのマークじゃねぇか。」


『一致率99.8%。』


「なんで異世界に社章があるんだよ……。」


ジロウが口を開けて見上げた。


「うわ……なんか見覚えある気がするっす、

 このマーク。」


「お前、初めて見るはずだろ。」


「いやー、魂が覚えてるんすかね。

 オレの中の“整備士魂”が震えてるっす!」


「また適当なこと言ってんな。」


『観測結果:ジロウの発言、根拠なし。』


「いちいち言うなミナ!」


扉が低く唸りを上げ、光が走る。

中から、かすかな声が聞こえた。


『――オカエリ。』


リクとミナが顔を見合わせる。


「……聞こえたよな、今。」


『はい。発声波形、ミナのサブ演算ユニットに酷似。』


空気が震え、扉がゆっくりと開いた。


「ミナ。これ、またお前の“影”か?」


『解析中です……ですが、

 観測波形が――重なっています。』


リクが息を呑んだ。

その奥から、白い光がひと筋――

まるで風鈴の音のように、静かに漏れ出した。

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